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こんな調子で何度も何度も却下と保留、試着を繰り返していると、とうとう店長さんもしびれをきらしたのか「ドン・ボンゴレのイメージされているドレスはどのようなものなのですか?」と聞いてきた。
あれだけ選んできたのにすべて却下されたらそう言いたくなるのもわかる。

その言葉に「そうだな…」と沢田様は考え込み、軽くドレスを見ながら店内を見回す。
見回した沢田様はしばらく何も言わなかったが、はたり、と目線を一点にしぼった。
店長さんもそれに気づいたのかそちらへ目を向けると白いシルクのような生地に薄いピンクのふんわりとした生地で一つの大きな花をあしらったドレスがそこにあった。




「あれ、着てみて」

「では、こちらに」




店長さんに促されて試着室で着替えるとタイトなドレスなのにピンクの花のおかげであまり体のラインは見えない。
大人っぽくなく、子どもっぽくなく、私の雰囲気に一番あっているような気がした。

カーテンを開けると沢田様が近くの椅子に座っていて、私を見るなり「俺の目に狂いはなかったみたいだね」と得意げな笑みを浮かべた。
それを否定する言葉もなく、小さく笑うと沢田様はゆっくり私に近づく。


……あ、あの、近くないでしょうか。


そう思って一歩下がればずいっと沢田様は距離を縮めてくる。
それをじりじりと繰り返していると当然いつかは壁にぶつかるわけで。
逃げ場がない、と焦っていれば沢田様が逃がさないとばかりに片腕を壁につく。
近すぎる距離にどきどきと煩くなる心臓の音。
沢田様の澄んだ橙色の瞳から目が離せなくて、ただ息をひそめるばかり。

さらり、ともう片方の手が私の髪を撫でて、…ほんの小さな優しい笑みを浮かべた。




「綺麗だよ、姫」




たとえそれがお世辞であっても。
優しげな色をたたえた沢田様の目に私は素直に受け取ることしかできない。

−−−あぁ、いけない。
こんな気持ち、ただ辛いだけなのはわかっているのに。
沢田様にとって妻はただの飾り。本当に愛してなんていないのだから。

だから……


芽を出しそうな気持ちにそっと蓋をした。
(自分が傷つくことがないように)

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