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−−−数日後


今日のボンゴレはいつもより騒がしく、どこかせかせかとした雰囲気に包まれていた。
特に私の周りにはいつもよくしてくれるメイドさん方が何人も囲っていて、あれやこれやと言葉を交わしている。



「姫様にはやっぱりこの色よ!」

「いえ、今日は大人っぽくこの色で!」

「あああもう!どれもお似合いだから迷うわー!でも時間がないのに!」



なんて言葉が何度も何度も聞こえてくるが、私が口を挟む暇なんてなく。
されるがままにお化粧や装飾品が飾られていく。
…そう、今日は所謂婚約パーティーの日なのだ。
沢田様が選んでくださったドレスにプロのメイクアップアーティストとメイドさん方の力により別人に化ける。
あらー…誰かしら、目の前の鏡に映るお嬢さんは。
お綺麗ですわー!!とお世辞でも騒いでくれるメイドさん方にありがとうございます、と笑い返す。
するとトントン、と控え目なノック音が聞こえてきたのでメイドさんの一人が私の代わりにドアを開けてくれる。
誰だろうか、と首を傾げると姫様、とメイドさんが私の名前を呼んだ。




「クローム髑髏様がお見えになっています」

「クローム様…」




確か霧のもう一人の守護者様。
六道骸様が霧の守護者だが、クローム様を通して憑依できるとか……
詳しいことはよく知らないが、もう一人の守護者様と考えて相違ないだろう。
本来なら私からお出迎えしないといけないが、今は身動きできない。
申し訳ないが、こちらに来てもらうしかないな、と申し訳なさに心が痛んだが、お通ししてください、と声をかける。
メイドさんが「こちらです」と声をかけて、軽く振り返ると黒スーツに身を包んだ綺麗な女性が立っていた。
こぼれ落ちそうなくらい大きな黒い瞳、軽く染まった赤い頬、…あぁこういう人を可愛い女の子、っていうんだろうな、と納得した。




「お初にお目にかかります、クローム様。このような格好でご挨拶することをお許しください」

「…ううん、気にしてない。そんなに気を使わなくて大丈夫」

「ありがとうございます。どうされましたか?」

「ボスに様子を見てくるように頼まれたの。…姫、とっても綺麗」

「…ありがとうございます」




いやいや、あなたの方が数倍綺麗ですよ、とは言えず。
とりあえずお礼で返すとじっと見つめてくるクローム様。
…そ、そんな目で見つめられると女の私でもドキドキするのですが……




「…あの、クローム様」

「クローム」

「え?」

「様なんていらない。…クロームって呼んで」




その方が嬉しい、と無表情に近いが恥ずかしそうに目を伏せるクロームにあぁ、そっか、と妙な納得。
この人はただ表現するのが苦手なだけで、根はとても優しい人なんだ。
少しクールな方だな、と思っていたが、実はそうではないとわかると何だか親近感を覚える。
ふわり、と安心するように笑いながら「クロームって呼ばせて頂きますね」と言うとクロームはハッとしたように一瞬目線をあげて、私と目が合うと今度は頬をはっきりと赤く染めながら再び目を伏せて、こくり、と小さく頷いた。

あぁもう何だか本当に可愛い。
こう言っては失礼かもしれないが妹のような感覚になってしまいそうだ。

ふわふわとした優しい気持ちになっていると、隣にいたメイドさんから「姫様、クローム様、そろそろお時間です」と言われてハッとする。
時計を慌てて見れば約束の時間の10分前。
いけない!と慌てて立つとドレスの裾をとって歩き出せばすでにクロームが部屋のドアを開けててくれて。
ありがとう、と感謝しながら私は馴れないヒールを鳴らして歩き出した。

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