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近くにあるボンゴレのお城まで大きなリムジンで連れて行かれる予定で、私は玄関に行くと既にタキシード姿の沢田様がホールで待っていた。
あぁ、待たせるつもりはなかったのに。
私が声をかけるより先にクロームが「ボス」と呼びかけて、沢田様は軽く振り向いた。
ドレス姿の私が目に入ったのか、とても驚いたように私を見つめる。




「…綺麗、だよ」

「っ…ありがとうございます」




メイドさんやクロームから言われた言葉と同じはずなのに。
何故か顔が熱くなって、辛うじて言葉をいうことができた。
沢田様は私に片腕を差し出すと「エスコートさせていただけますか?レディ」と微笑む。
それに小さく頷いて「ありがとう」と言いながら腕に手を添えた。
そのまま歩いて車に乗るとボンゴレの城まで動きはじめる。
乗っている間少しだけ緊張したが、何時も通りにしていれば大丈夫と言い聞かせた。




「もしかして緊張してる?」

「…はい」




隣にいた沢田様に緊張が伝わってしまったのだろうか。
安心させるような笑みを浮かべた沢田様が私の頭を軽く撫でた。

(どきり、としてしまって)
(触れられた部分が、熱い)




「大丈夫。サポートはするから」

「…ありがとうございます」




当たり前だろ、と優しく微笑まれて赤くなりそうな頬を隠すために軽く視線をそらす。

−−−大切なパーティーの前だからだろうか。

今日の沢田様はいつも以上に優しく、私に笑いかけてくれる。
まるで本当に愛している妻に接するみたいに……

そんな例えに私は小さく頭を振ってその考えを打ち消した。

違う。それはただの勘違い。

沢田様が最近優しいのは本物の妻に対する態度を身につけるためだ。
いつものような態度では、妻になったように見えないから。
…私を、本当に好きになる日なんて、来ないことくらい……

沈みそうになる気持ちを抑えて私は一つため息をつくと気持ちを落ち着かせる。
今は沢田様の気持ちがどうか、なんて関係ない。
私はただ今日のパーティーが成功に終わるよう、精一杯がんばるだけ。

気合いを入れて前を向けば目的地が次第に見えてきたのだった。

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