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姫が化粧直しと言って席を外してから目の前のオヤジはしつこいくらいに自分の娘を勧めてくる。
…いい加減うざいんだけど、コイツ。

顔はにこやかにしながら内心イラッとしているとどうやら俺が折れないことに諦めたのか、ではまた、だのなんだの言っていなくなった。
ようやくか、とため息をついて少しその場から離れてテラス近くまで行ってみる。
すると、雲雀さんの後ろ姿と…姫の後ろ姿が目に入った。

姫…化粧直しに行くって言いながらあの場から逃げてただけかよ。
一つでも厭味を言ってやろうと足を進めようとした瞬間、雲雀さんの手が姫の頭を優しく撫でた。



−−−なんだよ。



何で、そんな簡単に受け入れてんだよ。

ここから顔なんて見えないけど、嫌がってないことはすぐにわかった。
俺が綺麗って褒めても困ったような…悲しい顔しかしないくせに。


ムカつきと、微かな悲しみから俺はぎりっと拳を握りしめて踵を返す。
俺に振り向かない女はいない。
…姫だけが女じゃないし、俺に靡かないなんて姫が男を見る目がないんだ。




「綱吉様」




艶やかな笑みを浮かべた女はどこかで見たような顔。
もしかしたら一回か二回関係を持った愛人かもしれない。
まぁ覚えていないからその程度だったのだろう。

色気を含んだ笑みを浮かべる、恐らく一般的には美人といえる女は馴れ馴れしく俺の腕に手を絡めてきた。




「お久しぶりでございます。今日はお会いできて嬉しいですわ」




わざと体をくっつけてくるこの女に嫌気がさし、振り払おうかと思ったが一瞬頭の中を先程の姫と雲雀さんが頭を過ぎる。
…あっちはあっちで楽しんでるんだし、俺が不快な思いばっかりしなくてもいいじゃん。

俺好みじゃないけど、悪くないし、とりあえずのっておくか。

引き寄せるように片腕を腰に添えると女は何か勘違いしたようにこちらに擦り寄ってきた。




「…綱吉様、今夜は…ダメ?」

「……あとでゆっくり可愛がってやるよ」




そう囁いた自分の声は一番冷たくて、一番嫌悪感のある声だった。

その事実に小さく自嘲するとパンッという銃声と悲鳴が響き渡る。
そのことに意識を鋭くさせると同時に隼人がこちらへ走ってきた。

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