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「…ん…」




誰かの気配から重たい瞼を持ち上げると見慣れない天井に、ベッド。
白い壁にふんわりとしたレースのついたこの部屋はどこかのお嬢さんのお部屋みたいだった。
どこだろう、と働かない頭をゆるゆると動かして寝る前のことを思い出していた。
確かパーティーに出席して、沢田様が女性を口説いてて、逃げ出して、そして……




「……っ!」




急速に頭が覚醒して、飛び起きればずきり、と頭が痛んだ。
恐らく薬をかがされた後遺症だろう。
痛む頭を押さえていると「無理なさらないでください」と柔らかな声。

声の方へ顔を向けると柔らかな笑顔を浮かべた女性がその場に佇んでいた。
あなたは誰、と問い掛けようとして体を動かすとこの部屋には似つかわしくないじゃらり、という鎖の音。
手首を見てみれば手錠と、それを繋ぐ鎖がベッドと繋がっていた。
…よく見たら足も繋がれてる。




「無礼をお許しくださいませ、姫様。
ですが、あなた様が逃げ出さない限り私共は危害を加えるつもりは毛頭ありません」

「…ここは?」

「お教えすることができません」

「じゃあ、あなたの名前は?」

「…シェリアル、とお呼びくださいませ」

「………シェリアル、さん」




ワンテンポ置いて名乗られた名前を呟くとシェリアルさんは困ったように微笑んだ。
シェリアルさん曰く、シェリアルさんは私のお世話係らしい。
壁際にある大きな本棚は私が暇を持て余さないように入れられたもののようだ。
好きにお読みください、と言われて遠慮なく頷く。




「…最後に一つだけ」

「………私に答えられるものでしたら」

「どうして私を?」




一番気になっていたことだ。

ボンゴレにとって私は価値がないに等しいことは周知の事実のはず。
私を人質にとってもボンゴレが揺らぐことはないし、ボンゴレの何かを犠牲にしてまで沢田様が私を助けてくれるとも思えない。
むしろ私を人質にとってしまったらボンゴレを敵に回してしまうことになり、あちらから本気で潰されることになってしまう。
どう考えても私を人質にとることはデメリットばかり。
人質をとるにしても他に守護者の家族とか(いや、冷静に考えたら守護者のご家族を危険に晒さずにすんでよかったのかもしれないけど)もっと効果的な方がいるはずなのに……

真っ直ぐ視線を送るとシェリアルさんは悲しげに微笑んで私の視線から逃れるように軽く俯いた。




「…あなた様は、私共と同じでございますから」

「…?それはどういう、」

「失礼いたします」




シェリアルさんは私の言葉を聞くことなく頭を下げてこの部屋から出ていく。

呼び止めることなく私はその背を見つめて先ほどの言葉の意味を考えた。
……同じ、ってどういう意味なのかを……

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