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出てきたのは見知らぬ女。けど、姫にとっては見知った女のようで姫は彼女をみて「シェリアルさん…」と呟いた。
シェリアル、とは彼女の名前だろう。
彼女は何故かとても悲しそうに…どこか姫を憎らしそうに見つめていた。




「あなたは、私たちと同じだと思っていたのですが…どうやら違ったようですね」

「…どういう意味だ」




低く尋ねれば彼女は軽く目を伏せて無表情に小さく呟いた。
…どこまでも感情を抑えた声で。




「ボンゴレに幸せを奪われた者」

「…っ、俺たちは麻薬を表の世界に蔓延らせることを許せない!
だから、君たちの地域をファミリーを、」

「私の弟はっ!…私の弟は、確かにドラッグ漬けにされたわ」

「「…!」」




その言葉に俺も姫も小さく息を飲んだ。
…まさか薬の被害者がこの争いに混じっているとは思わなかったのだ。
だったら、さらにわからなくなる。…何で、ボンゴレを憎む?
俺らもマフィアだから綺麗事なんて言えないけど、ドラッグ漬けにされた人間からしたら薬を売る人間がいなくなって解放されたと思うんじゃないか…?




「…ボンゴレが壊滅してくれたときは、助かったと思ったわ。これで弟は薬から解放されると…
でも……実際は逆だったわ。薬が買えなくて、弟は狂い…死んだの」

「…っそんな…」

「馬鹿な話でしょう。でも、それが事実。
確かにあのままじゃ近い未来に弟は薬によって死んでいたでしょうね。
でも……少しでもいいから、長く生きてほしかったのよ…!」




涙ながらに訴えるその言葉は聞いているだけで辛くて。
何が幸せか、そんなの人それぞれであることを強く実感させられる。
シェリアルさん、と再び小さな声で姫が彼女の名を呟く。
その声音はどこまでも辛そうで、痛々しかった。




「けど、それが本当の幸せとは限らない」





どさり、と彼女の体がいきなりその場で倒れ込む。
その体を支えたのは彼女を気絶させたであろう張本人である雲雀さん。

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