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あの事件からしばらく経った頃、残党などの処理も終え、事態が収束してきた。

私の周りも少しずつ日常に戻り始め、滞っていた仕事を徐々に終わらせているとトントン、と執務室のドアが鳴る。
さっき書類を届けたばかりだから…何か手違いがあったのだろうか、と思いながらドアをあけて、瞠目。
目の前には何とも言い難い表情をした沢田様が立っていた。
何となく不機嫌のような…何だか照れ隠しをしているような……




「沢田様…?」

「…ん、」




ずいっと出されたのは最近人気という噂のケーキ屋さんの箱。
何も言わず出されて、ちょっとだけ困惑する。

これは一体…もしかして差し入れ、なのかな…?

ずっとこのままでも何だか怪しいのでとりあえずその箱をそっと受けとった。




「差し入れ」

「(やっぱりそうなんだ)ありがとうございます」

「じゃあね」

「え、あ、あの!」

「…?」

「せっかくですから一緒に食べませんか?」




沢田様からいただいたのだから一緒に食べたい。
そう思って声をかけたのだが、何故か沢田様から反応がない。
…どうされたんだろう?
小さく首を傾げてみたがいつまでも固まっていらっしゃるので、とりあえず「どうぞ」と言ってお部屋の中に招き入れる。
沢田様はその数秒後「おじゃまします」と言って入ってきたのでカップを2つ用意した。

紅茶を淹れていただいたケーキをお皿に乗せるとお盆に乗せて持っていく。




「沢田様、」

「綱吉」

「…え?」

「綱吉って呼んで」




さっきから気になって仕方ないんだよね、と言われてぽかん、とする。
…外では偽りの婚約者とバレないために綱吉と呼べって言われていたけど……
まさかプライベートまで呼ばないといけなくなるとは思わなかった。
沢田様の目を見てみれば…以前とは違う澄んだ瞳。


『私』をちゃんと見てくれている。


それが嬉しくてびっくりしながらも「はい、綱吉様」と名前で呼ぶ。

沢田様…いえ綱吉様は軽く目を反らして「様もいらない」と言って紅茶のカップを傾けた。
それが綱吉様なりの照れ隠しだとわかって、私は小さく笑ったのだった。




「ケーキ、おいしいですね…綱吉」

「…うん、おいしい」




照れくさくて、ちょっとはにかんでみれば、笑い返してくれる。

そんな綱吉に私の心が音をたてた。

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