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それから数ヶ月後…


息もつく暇もなく結婚式の準備を慌ただしく行ってついに当日を迎えていた。
特に幸せとも悲しいとも思っていなかったので淡々と純白のドレスを身に纏い、お綺麗ですよ、という見え透いた嘘に愛想笑いを返す。

…あぁ、なんてつまらない。

そっとため息をつきながらボンゴレの所有地にある大きな教会で式を挙げて、ボンゴレの所有しているお城で披露宴をして、色んな人に挨拶をする。
いい加減愛想笑いにも疲れてきて、一旦お化粧を直してくると嘘をついて控室まで戻った。
控室は先ほどまでのきらびやかさが嘘のように静まりかえっていて逆にホッとする。
しばらくはここで休んでおこう、と椅子に座り込むとふと机の上に目がいく。



「…花?」



一本の深紅のバラが色鮮やかに置かれていた。
もちろん刺はちゃんと処理されてあり、何とも言えない存在感を醸し出していた。
そっと机に近寄り、その美しいバラを持ち上げるとはらり、と一枚のメッセージカードが手元に落ちる。

誰からなんでしょうか…?

そのメッセージカードの字を見た瞬間、私は思わずそのメッセージカードを手放していた。
小さく震える手を必死に宥めて、緩みそうになる涙腺を一生懸命堪える。




“お前の幸せを願ってる”



「リボーン…っ!!」



あぁ、どうしてわかってしまうのだろう。
この美しい書体を忘れることができていたら気づくこともなかったのに。

でも、見間違えるはずがない。

一体いつここに置いたのだろう、どんな気持ちであなたはここに赤いバラを置いたの?
昔、いい女になったら赤いバラをくれるという約束を覚えていてくれたの?

…私は、いい女になれたのかな?
結婚したのにこんなにもあなたのことを忘れることが出来ない私が……

美しく咲き誇る一輪のバラを大切に愛でると大きく息を吸い込んだ。

こんなところでうじうじしている場合じゃない。
彼が認めてくれたいい女になるためにボンゴレの妻として演じ続けなければ。
ぐっと力を入れてからドレスの裾を翻し、再びきらびやかなパーティー会場へと戻る。


ねぇ、リボーン。
あなたのことは忘れられそうにないけれど、あなたに見合えるような女になれるように頑張るよ。

あの深紅のバラに誓って……。

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