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やっぱりパーティーって慣れない、と小さく嘆息しながら飲み物をもらう。
綱吉はシャンペンでいいかな、と思い、注いでもらっていると誰かが隣にきたのがわかった。
甘い香水と視界の端に映ったドレスの裾からして女性だろう。
どこかのファミリーのご令嬢か奥方だろうか。
挨拶した方がいいかな、と思案していると「ボンゴレ夫人様」とあちらから声をかけられる。

ぱっと振り向くとシックなドレスに身を包んだ女性が三人笑顔で立っていた。
…ただ、その笑顔が友好的なものでないことはすぐにわかった。




「ご機嫌よう。…かわいらしいワンピースですわね」

「えぇ、本当に!地味…いえ、シンプルな感じがぴったりですわ」

「(地味って…)…ありがとうございます」




あからさまな言い方にさすがの私も少し不快に思ったがぎこちなくも笑顔で返す。
…これがいけなかったのだろうか。
嫌味が通じないと感じたのか彼女達は小さく馬鹿にしたような笑みを浮かべて腕を組んだ。




「大して美しくもないくせによく綱吉様の夫人になれたわね」

「ただの政略結婚だというのはご存知でしょう?妻だと紹介されることに恥ずかしさを覚えないのかしら」

「お飾りなんかが綱吉様の奥方面しないで」

「綱吉様もお可哀想に…これではボンゴレの偉大な権力に傷が付けられますわ」




浴びせられる罵詈雑言。

確かに私はお飾りだし、政略結婚で愛なんてないかもしれない。


―――けど。




「私はボンゴレの…いえ、綱吉様の妻になれたことを誇りに思っています。
ボンゴレを貶すようなことを仰ることは誰であろうと許しません」




真っ直ぐと見つめてそれだけをきっぱり言い放つと彼女達の頬が怒りで赤く染まる。

もしかしたら私が言い返さないと思っていたからかもしれない。
…いや、気に入らない人物から反抗されれば誰でも怒るに決まっている。

生意気、と誰かが低い声で呟いた。




「あなたなんか…っ!」



ひゅっという空気を裂く音と共に彼女の手が振り上がる。
あぁ、殴られる。と瞬時に理解できたが、私は避けることも阻止することも考えなかった。

…彼女達の気が済むならそれでいい。
痛いのは嫌だが、抵抗するつもりはなかった。
それに反撃して怪我でもさせればボンゴレと同盟ファミリーの間に亀裂を生むことになる。
それだけは避けなければならない。

振り下ろされた手に覚悟を決めて目を瞑ったが、予想した衝撃はなく、代わりに誰かの温かい手が私の体を抱き締めていた。


驚いて目を開けると―――彼女の手首を掴み、私の肩を抱いている綱吉が隣に立っていた。

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