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飲み物を取ってくる、と言って離れた姫は注いでもらっている間、誰かと話していた。
何の話かはあまり聞こえてこないが、あまりいい雰囲気とは言えない。
目の前の彼に「ちょっと失礼」と言って姫の方へ歩いていく。
…聞こえてくるのは姫に対する悪口ばかり。
確かに姫とは最初政略結婚という名目で結婚した。
愛する気はなかったし、愛さないと思ってた。
―――けど、そんな俺の心に姫はするり、と自然に入ってきたんだ。
入ってきたことにすら、気づかないほど、自然に。
笑顔がみたい、もっと側にいたい、…触れたい。
胸が熱くなるほど、姫への欲求は高まるばかり。
俺をこんなにも虜にする姫を傷つけることは――誰であろうと許さない。
ただでさえ政略結婚と未だに思い続けてる姫にお飾りだのなんだの言うのは本当に余計なことだ。
俺から姫の表情は見えないけど、姫が彼女たちを真っ直ぐ見つめたのがわかった。
「私はボンゴレの…いえ、綱吉様の妻になれたことを誇りに思っています。
ボンゴレを貶すようなことを仰ることは誰であろうと許しません」
―――あぁ、ほら、やっぱり。
どうして彼女はこんなにも俺のほしい言葉を簡単にくれるんだろう。
その言葉一つで俺の心を掴んで離さない。
小さくさすが、と呟いて笑みを溢すと何だか不穏な空気がその場を包み、ひゅっという空気が裂ける音がした。
―――姫が殴られる。
そう理解した瞬間、俺の体は走り出し…姫の体を庇うように引き寄せ、殴ろうとしていた女の手首を掴んでいた。
俺に止められて殴ろうとしていた女の顔色が驚きの色に変わる。
他の女達もまさかボスである俺に止められるとは思ってなかったようで、表情を固めていた。
「彼女を傷つける人間は誰であろうと許さない。…それに、」
政略結婚が必ずしも愛がない結婚とは限りませんよ。
俺の言葉に隣にいた姫の顔がこちらに向けられたのがわかった。
そんな姫に小さく笑いかけると同時に彼女たちは小走りで泣きながらさっていく。
その後あの女たちの父親や夫たちが謝罪しにきたから気づかなかった。
姫が困ったような、泣きそうな顔をしていたということに…―――
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