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恭弥は多分自室にいるだろう、と予想をつけて恭弥の部屋に向かう。
時々ヒバードの頭を撫でながら進み、恭弥の部屋の前までたどり着いた。
軽くノックをして姫です、と名乗ると「入りなよ」と心地のいい低い声が中から聞こえてくる。
襖を静かに開くと主を見つけたヒバードはパタパタと羽ばたいて恭弥の頭の上にぽすん、と着地した。




「どうしたんだい?君から来るなんて珍しいね」

「ヒバードが部屋にきていたので…」

「あぁ、なるほど。君、どこに行ってたかと思えば…」




呆れたようにヒバードを見やるが当のヒバードは何もわかってないようにくりっとした目を瞬かせるだけだった。
戯れる彼らを見つめて自分はお暇しようと腰を上げかけたが恭弥の視線がふと私へ向かう。




「また何か悩んでいるのかい?」

「え…」

「君、わかりやすすぎるよ。…どうせ沢田のことなんだろうけどさ」




ふあっと欠伸をもらしながらそう言った恭弥にこの人には本当に敵わないと小さく笑ってしまった。
ヒバードはキッカケにすぎなくて、本当は誰かに…ううん、恭弥にこのごちゃごちゃした気持ちを聞いてほしかったんだ。
恭弥は陳腐な慰めも、同意もしない。ただ、私の話を聞いてくれるから。
…時々すごく鋭いことを言ってくるから私の悩みは大体解消されるし。




「…私、ずっと…リボーンしか愛せなくて、綱吉のことはずっと…愛せないと思ってたの。
政略結婚だし、綱吉には結婚を決める前に“愛のない結婚だ”ってはっきり言われていたから。

―――でも、今日のパーティーで気づいてしまったの。…綱吉を本当に好きになってしまっていることに…」

「よかったじゃないか」

「よくないです!…だってまた私…報われない恋を…今度は結婚していて側にいる分余計に、私…」

「……?…あぁ、そうか」




私の話を「何言ってるの、この子」とばかりの顔で聞いていた恭弥が急に納得したように頷いた。
何に納得したのか全く検討もつかない私は不安そうな顔をすると恭弥は小さく笑みを浮かべた。

…その笑みはどこか馬鹿にしたような、楽しそうな色を含んでいて、益々わからなくなる。




「辛くない恋なんてないし、そんなに辛かったら当たって砕けてみたら?」

「えっ!?」

「ま、砕けたら砕けたですっきりするでしょ」

「砕ける前提なんですか!?」




(ま、砕けないだろうけどね。
…鈍感っていうのも厄介な性質だよ、全く)




何故か不敵な笑みの恭弥に私は何故か「気持ちを伝える」という選択肢しか残ってなかったのだった。

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