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せっかく姫に会うために書類を届けたのに間違いがあるなんて……
変なところでダメツナだったときの癖発揮しちゃってるし。
…ま、後で姫の手作りケーキ食べれるなら役得なのかな?
少ない書類片手に歩いていると前から無表情の雲雀さんが。
お疲れ様です、と声をかけると「何だ、沢田か」みたいな顔をされて思わず苦笑した。
「君が書類を運ぶなんて珍しいね」
「姫のとこに行ったら紛れてたみたいで」
「ふぅん」
姫、ね。
と意味深に呟いた雲雀さんに少なからず気になる。
あの雲雀さんがこうやって意味深なことを言うときは決まって何かしらあるときなのだ。
無意味なことはしない人だし、…誰でもない、姫に関してだから余計に気になった。
「姫がどうかしたんですか?」
「君、何も言われてない?」
「…言われてませんけど」
「(まだか…さっさと言えばいいものを)」
そう、とあっさり頷いた雲雀さんに小さな苛立ちが浮かぶ。
オレに姫が何か伝えようとしていて、その内容を知っている。
…何だよそれ。確かに雲雀さんは姫と珍しく仲がいいと思っていたけど……
オレだけが知らないというのも気に入らないし、雲雀さんに仄めかされたのも気に入らない。
そんな苛立ちが伝わったのか雲雀さんは小さく笑みを浮かべた。
「(まぁ揺さぶってみるか)
姫、想い人ができたと悩んでたよ。
君とは政略結婚だしね。悩むのは無理ない」
「…っ!」
全身を殴られたみたいに、動けなかった。
通りすぎていく雲雀さんに何も言うことなく、ただその場に佇むしかなかった。
―――姫に想い人ができた。
オレと結婚してるから、報われない想いに苦しんで…
じゃあ、さっき悩んでいたのは、そのこと?
「…無理よー…」
「い、いえ、詰まらないことですので!」
あれは“オレがいるからこの恋は無理だ”って意味だったのか?
オレが君の足枷になってる……
ぎりっと拳を握りしめて、やり場のない痛みを噛み締めたのだった。
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