58



その頃私は小さく鼻歌を歌いながらキッチンに立っていた。

さっき綱吉とシフォンケーキを焼くと約束したから。
ちょっとアクセントに紅茶の葉を混ぜておくと香りのいいケーキが出来て満面の笑みを浮かべた。

生クリームをたてようと思い、ボールを取り出すとこんこん、とノック音。
誰だろう、と首を傾げながらも「はーい!」と返事をしてドアに向かう。
綱吉…ではないよね。出来たか見にきたとか。

そんな予想をたてながら開けると、




「…っ、リボーン…」

「――…ちゃおっス」




黒のボルサーノの鍔を少しだけあげたリボーンが立っていた。

予想だにしてなかった彼の訪問にびっくりしたが、以前より動揺はしていないことに気づく。
…前は初恋の人で、その時はまだ好きだった人だから動揺したけど…今は綱吉が好きって自覚がある分大丈夫なのかも。

そんなことを冷静に考えて、ふわり、とリボーンに笑いかける。




「Ciao,リボーン。どうしたの?」

「…ツナの奴が忘れてる書類があって、届けにきた」

「あ、足りなかった分がこれね。ありがとう」

「ツナは?」

「武のところに行かれたよ。中で待ってる?そうだ、ケーキ焼いたから、」




ぷつり、と言葉が途切れる。

リボーンの腕が私の体を抱き寄せたから。
昔より肩幅とか色々大きくなっていて、今じゃ私なんて包み込めるくらい。
温かい、とは思ったけど全然ドキドキしない自分に笑ってしまいそうになる。

…私、本当に好きな人にしかドキドキしないんだ……




「…リボーン」

「―――…」

「私ね、好きだったんだよ、リボーンのこと。」

「……っ」

「今でも大切って思ってる。…でも、その大切はちょっと違うの」




するり、と腕が緩んで私はリボーンと面と向かう。
リボーンは何故かどこか泣きそうで、…でも優しい笑顔を浮かべていた。

―――あなたは大切な初恋の人。

ずっと…あの切ない気持ちも、幸せだった気持ちも忘れることなんてできないだろう。


だから私も、出来る限りの笑顔を向ける。




「ありがとう、リボーン。大好きだったよ」

「…あぁ」




くしゃり、と最後に別れたあの日のように髪を撫でられる。
温かくて大きな手はすごく心地よくて、お兄ちゃんみたい、なんて小さく笑った。


―――その様子を綱吉が見ていたなんて、気づかないまま。

- 58 -

*前次#


ページ:

top
ALICE+