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何故か「僕に勘違いさせた罰として何か作ってよ」と言われ、とりあえず綱吉用に作っていたケーキを出すと満足したのかすぐに帰られた。
本当に自由な人だな、と小さく笑って綱吉の分をお皿に乗せてカートの上に置く。
綱吉…気に入ってくださるかな?

少しわくわくしながら紅茶も用意してお部屋に伺う。
こんこん、とすると中から綱吉の声がして、失礼します、と入ると綱吉は仕事用のデスクで書類に目を通していた。




「綱吉、今忙しいですか?」

「いや……でも、ちょうどよかった。姫に話がある」

「…?何でしょうか?」




綱吉の雰囲気はどこまでも固い。…いや、私の考えすぎと思うけど…冷たい。

まるで最初に会ったときのように……

でも、あの時とは違って綱吉の目は何処までも透き通った、覚悟のある目だった。
…考えすぎだといいんだけど…すごく、嫌な予感がした。




「結婚を解消したい。もちろん、同盟は破棄しないまま」

「………え…」

「無理だったんだよ、やっぱり。上のじじぃ共が五月蝿かったから結婚したけど…政略結婚なんて面倒だっただけだった。
君も自由になれるし、一石二鳥。互いの利益の一致ってわけ」

「………っ」




痛い痛い痛い……っ
突き刺さる綱吉の言葉が、痛い。

冷たい瞳…最近では見なかった、冷たい色。

ーーー綱吉から、嫌われた……




「綱吉…」

「…っ、気安く、呼ぶな」

「………申し訳ありません…」




溢れそうな涙を必死で堪えて、震える体を必死でおさえて、綱吉を見つめる。

…一方的な愛だと、突き放されているのに、どうしてまだ愛しいんだろう。
大好き…大好きです、綱吉。
この気持ち、お伝えできなかったことが何より心残り。
政略結婚でいいから、愛して貰えなくてもいいから、…ただ、側にいたかった。

けど、それももう…今日まで。

綱吉の望みを叶えて差し上げないと。
もしかしたら、綱吉には好きな人ができて、私が邪魔になったのかもしれない。
…きっと、素敵な人なんだろうな。




「…沢田様」

「………」

「短い間でしたが、沢田様の妻になれたこと…とても、幸せでした。…どうか、お幸せに」




あなたの幸せだけを祈っています。


ふわり、と微笑むと綱吉は私から目を背けて、何も言わなかった。
ぺこり、と頭を下げて何も言わずに背を向ける。
頬を伝う涙に、気づかないふりをして。

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