62
「………っ、」
パタン、と閉まったドアが最後を告げる。
ごめん…ごめん、姫。
でもこれでようやく君は幸せになれる。
リボーンと、何の壁もなく接することができるんだよ。
君が幸せなら、それで……
ぽたり、と落ちた雫石に自分が泣いていることに初めて気がついた。
泣いたのなんて何年ぶりだろう……
…そうだ、あの時、以来。
あの時から俺はマフィアのボスとして泣くことができなくなった。
そしてもう、泣くこともないと思っていたのに……
声を押し殺して泣いているとふと目に入ったカート。
あれはよく姫がお菓子とか持ち運ぶときに使う……
もしかして、と思い、そのカートを見てみると、
「…作ってくれてたんだ」
甘い、シフォンケーキ。
俺がケーキ作ってって言ったから急いで作ってくれたんだろう。
俺は微かに震える手でフォークを持ち、一口だけケーキを食べた。
「…っ、うまい…」
ほんのり甘いシフォンケーキは切なくなるくらい、美味しかった。
姫の優しさが伝わってくるみたいで、また涙が込み上がってくる。
ーーーごめん、大好きだよ。
大好きだ…っ、姫…
…だから、幸せになって。
(俺のことは、忘れていいから)
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