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一発目の攻撃は避けて、右のストレートが彼の顔に入る。
攻撃の力はいつもの彼らしくない単調的なもので重くもない。
こんなので僕に一発でも入ると思っているのかい?
おもいっきり殴り飛ばせば沢田の体は壁を突き破って外に投げ出される。
「話にならないよ、腑抜けた君なんて」
「…どいつもこいつも俺を腑抜け扱いか」
「自覚があるのかい?まぁあってもそんなものなら大したことないね」
「どういう意味ですか」
「…あの子、いらないなら僕がもらうよ」
僕の言葉に沢田はカッと目を見開いて、目に見えないほど早く殴ってきた。
辛うじて受け止めることができたが、このパワーににやり、と笑ってやる。
…やっぱり、姫のこと、
「何熱くなってるの?いらないんでしょ?」
「…っ、それ、はっ…!!」
「そんなに大切なら、手離すな」
姫はきっと君を待ってる。
それは口に出さず、沢田を見つめると沢田の目には強い光が灯っていた。
…そう、これを待ってたんだ。
ようやくか、と小さく息をついてトンファーを仕舞うと沢田もグローブを外して立ち上がっていた。
「…礼を言った方がいいですか?」
「そんなが暇あるのならさっさと行けば」
「フッ…ありがとうございます」
結局言ってるんじゃない、と胸中だけで皮肉り、出ていく沢田を軽く見送った。
ふぅ、とため息を再びつきながら僕は沢田の椅子に座り込む。
「…よかったのかい?ーーー赤ん坊」
「あぁ」
テラスの影から感じていた視線……
恐らく、と思い声をかければやはり赤ん坊が影から姿を現す。
君も損な役回りだよね……
そう小さく笑って立ち上がると僕は赤ん坊の肩を叩いてその場を立ち去ったのだった。
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