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あれから何もなく日はすぎていき、しばらくはシュークリームも食べないという暗黙の約束ができた。
それでも私の中にはあの写真のことがあって気分は冴えない。
はぁ、とため息をつくと、
「どうしたの?姫」
「あ…綱吉…!」
後ろを振り向けばソファーの背に顎を乗せて首を傾げる綱吉が。
綱吉は立ち上がって私の隣に座ると再び「何かあった?」と心配そうに聞いてくれた。
ーーーあの写真の方は誰ですか?
…なんて聞けるわけもなく。
大体それを言ってしまったら私室に入ったこともわかってしまうし、…それに……
あれは、綱吉の過去。
人の過去を今さら聞くなんて、できない。
綱吉にも言えない過去があるだろうし、そこまで私も追及したくはない。
そう頭ではわかっているが、気持ちは正直でついつい考えてしまうのだけれど。
「…今度、父の誕生日なので何を差し上げようか迷っているんです」
「……、…そうなんだ!誕生日って知らなかったよ」
「あまり知られていないものですしね。…一体何がいいのか…」
「なら、選ぶの一緒に行こうか?」
「え!?」
「うん、決まり。今から時間ある?」
「ありますけど、」
「じゃあ行こう!」
デートだね、と無邪気に笑う綱吉に胸の奥がきゅっとしまる。
…あの方が誰か、なんて関係ない。
今、綱吉が見ている人は…私だから。
あの写真のことは忘れよう。
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