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お父様のプレゼントも買えて、お店から出ると小さなお花売りが横切る。
あまり売れてないみたいだったが、すごく綺麗なお花ばっかりだった。
きっとあの子が大切に育てているのだろう。

お花屋さん、と声をかけると可愛らしい女の子が振り向いてくれた。




「お花、頂けますか?」

「はい!何かご希望はありますか?」

「じゃあ…あなたが好きなお花を」

「私が…?…わかりました!少々お待ちください」




にっこり笑った彼女は楽しそうに花を選び始めた。
その様子を見守っていると綱吉が私の隣に寄り添う。




「花束?」

「はい、とても綺麗なので執務室に飾ろうかと思って」

「お待たせしました!」




どうぞ、と渡されたのはガーベラやチューリップが組み合わされた可愛らしい花束。
よく見てみるとピンクの薔薇も入っていて、思わず「かわいい…」と呟く。

可愛いですね、と言いながら綱吉を振り向くと、…私は言葉を続けることができなかった。


ーーー綱吉が優しく、でもどこか悲しそうに薔薇を見つめていたから。

そんな表情…私は知らない。


どうしてそんな顔をするのだろう。
…まるで別れてしまった女性を見るように……




「…綱吉」

「………あ…ごめん、ぼぉっとしてた。行こう」

「はい…」




無理矢理作った笑顔に私が気づかないはずがない。

…もしかして、あの写真の女性のことを思い出したのですか…?

そんなこと、聞けるわけがなくて私は涙が出そうになるのを必死で抑えて笑顔を作る。
あなたの隣にいるのは私なのに、あなたが思う人は違う……
私のことを少しだけでもいいから見てくれていると思っていたのに、私の独り善がりだった。


ーーー私は、あなたのことが好きなのに。




「姫は何が食べたい気分?」

「……パスタが食べたいです」

「オッケー、じゃあ…」




歩き出す綱吉に、募る悲しさと辛さ…切なさ。
過去だと割りきりたいのに、納得してくれない心。

…この気持ちを、一体どうしたらいいの…?

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