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「…で、僕のとこに来たのかい?」
「う…!…ごめんなさい…」
かこん、という鹿威しの心地のいい音と恭弥の言葉と共に私の頭は項垂れる。
綱吉へのもやもやした気持ちに整理ができなくて思わず恭弥のところに来ていた。
…何故か恭弥の側は落ち着いて、自分の気持ちに整理がつきやすいのだ。
多分恭弥は何だかんだ言いながら私の話を聞いてくれたり、アドバイスしてくれるからだと思う。
そんな恭弥に甘えすぎている気がしないわけではないが。
そんな私に恭弥は呆れたように笑って私がたてたお茶を飲み干す。
「その素直な行動を沢田の前でもすればいいのに…」
「で、できないです…!それで綱吉に嫌われたりしたら私っ…」
「嫌われないでしょ。…って僕には嫌われるって心配してないわけ?」
「はい、してないです」
「何このあっさり。
何でだい?僕は沢田より短気で群れるのも嫌い。君に相談されるのもうんざりするかもしれないんだよ?」
「うんざりしてるんですか…?」
「…、…まぁしてないけど」
「だからですよ。恭弥は嫌なら嫌とはっきり言ってくださるから、こうやって来ることができるんです。
…綱吉はきっと…言ってはくださらないから…」
私に飽きたとしてもきっと何も言わずにいてくださるだろう。
それが苦しく、辛い。
悲しげに目を伏せる私に恭弥は何も言わない。
…本当は聞くべきでないことはわかっている。
綱吉の過去を探るようなことを……
でも、今の私はもうそんな自制心より知りたいという気持ちの方が強かった。
「…恭弥、綱吉は…昔、「雲雀いるかー!!」…笹川様!」
「おぉ、姫ではないか!極限に久しぶりだな!」
「…………うるさいよ」
静かだった空間を裂くように笹川様が襖を勢いよく開けて入ってくる。
極限をモットーとする彼は熱くてとても優しい方だ。
私もいることに気づくと晴の守護者の名に相応しいくらい眩しい笑顔を向けてくれる。
お久しぶりです、と笑顔で返していると突然笹川様と私の間をトンファーがすり抜けていった。
「騒がしいよ、君。一体何の用」
「おぉ、オレとしたことが忘れていた!
この前頼まれていた資料が見つかってな、持ってきてやったぞ!」
「……見せて」
封筒とかをあまり持ち歩かないのだろう、裸のままの資料が恭弥に手渡される。
恭弥はそれを静かに読み始めて暇だったのか笹川様の視線が再び私に向かう。
「そういえば姫は何故ここに?」
「…大したことではないんですが、相談したいことがあって…」
「もしかして沢田のことか?」
「…!」
「やはりな。奴に手を焼いてるのだろう?
沢田はいい奴だが、女の扱いは極限に下手だからな!」
はははっと笑う笹川様に私はどう返したらいいか分からず小さく苦笑する。
恭弥はもうすでに我関せずを貫き通すつもりなのか再びお茶を飲み始めた。
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