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―――そして数日後。



「やっぱり、私の見立て通り。かわいい」

「あ、あの……クローム…」

「なに?」

「(他のドレスがいいとは言えない…!)」




ことの発端は一時間前。

クロームが選んだドレスの試着をしてほしいとボンゴレの屋敷を訪れたことから始まる。
綱吉から聞いていた通り、クロームがドレスを選んでくれたようだ。
姫は久しぶりに会えたクロームに嬉しく思い、最初はお茶をしていたのだが、クロームが試着してほしいと言ってドレスを取り出した。

白いシルク生地に金色の糸でさらりと刺繍してあり、フリルが足元にあしらわれ、可愛さもある。…が、しかし、如何せん所々露出が激しい。
胸元は勿論、斜めに切られている裾は一番短いところだと太ももが見えてしまっている。
よく見れば胸元が開いているのに比例して背中も見えている。
デザインは確かに可愛いが自分には似合っていない気がする、と姫は居心地の悪さにもぞり、と動いた。




「ドレスはかわいいです。でも、私に似合ってない気がするのですが……」

「ううん、すごく似合ってる。私の思った通り」

「…胸元開きすぎじゃないですか?」

「そんなことない」

「(そんなことあるよ、絶対…!)」




かわいい、とだめ押しのように笑顔で言い切ったクロームに姫はもう黙るしかなかった。
このドレスを見て、綱吉様はどう思うだろうか、と姫はかなり不安になる。
どう考えても自分には合っていないこのドレスで、連れていってもらえるだろうか…と。

そんな不安が顔に出ていたのか、クロームは困ったように首を傾げた。




「姫はもっと自信をもって。大丈夫だから」

「…ありがとうございます、クローム」



―――トントン


「姫、綱吉だけど」

「…!綱吉…!」

「丁度よかった。ボス、入って」

「(クローム?)失礼するよ」




焦る姫に、グッドタイミングだと笑うクローム。
何も知らない綱吉は一言断ってからドアを開けた。

最初に見えたのは白いドレス。
そして、それを着ている姫。

任務についての書類を渡しにきたのだが、まさかドレスを着ているとは思っていなかったようで綱吉はその美しさに思わず目を奪われ、書類を落としていた。

ぽかん、とする綱吉にクロームはやっぱり、とばかりに笑う。




「あ、ああああの、綱吉、」

「綺麗だ」

「…っ、え…?」

「綺麗だよ、姫。ドレス選びをクロームに任せてよかった。ありがと、クローム」

「どういたしまして、ボス」




満足そうに頷く綱吉に、先ほどの言葉が偽りでないことがわかると姫の頬が羞恥で赤くなる。
ゆっくり一歩姫に寄り、愛しげに見つめる綱吉の目線に姫は胸を高鳴らせ、思わず目を反らしたのだった。
その仕草に「(かわいい!)」と綱吉、クロームが叫んだのは二人しか知らない。

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