85
次の日。
昨日は恭弥の隣でたくさん泣いてしまい、当然顔が真っ赤になった私はパーティー会場に帰れるはずもなく、結局恭弥と一緒に帰ることになってしまった。
泣きはらした私の顔を見て、恭弥は一言「帰るよ」としか言わなかった。
…それが妙に安心した。
草壁さんに送ってもらい、部屋に戻るとすぐに顔を洗い、目を冷やす。
明日、綱吉に会っても大丈夫なように。
―――トントン
「姫?綱吉だけど」
「…!はい、今開けます」
考えていた彼がきたことですぐに笑顔をつくって鏡を見る。
…うん、大丈夫。ちゃんと笑えてる。
すぐにドアをあけるとそこにはティーセットを持った綱吉が。
おはよう、という挨拶に私も笑っておはようを返す。
「昨日飲みすぎたって聞いたから蜂蜜レモン持ってきたんだけど、気分はどう?」
「大丈夫です」
「そっか、ならよかった」
「…でも、蜂蜜レモンは頂いてもいいですか?」
「もちろん」
カートも部屋の中に入れて、綱吉が準備している間に紅茶を淹れる。
楽しそうに準備している姿を見て、少し切なくなったが気をとりなおした。
綱吉の前では、何も知らない私でいたいから……
「お砂糖は二つ?」
「うん、よろしく」
「はい」
いつものように紅茶を淹れて、お砂糖を二つ入れてから綱吉に渡す。
渡されてすぐに一口飲んだ綱吉はおいしい、と穏やかな笑みを浮かべた。
その笑顔はいつもの優しくて甘いもので、苦しかったはずの胸が少しだけ和らいだことに自分自身を苦笑する。
本当に私は綱吉が好きで、単純な人間だと。
「そうだ、今日は空いてたよね?」
「えぇ、どうしたの?」
「今ってバラが見頃だろ?一緒に見に行こう」
「…!すてきですね。お弁当も作っていきましょう」
「うん、姫の作ったお弁当、楽しみにしてるね」
にこりと笑って紅茶をもう一口。
すでに私の頭の中ではお弁当のことでいっぱい。
コックさんにあの食材があるか聞いてみよう、と考えをめぐらせていた。
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