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それから私たちは三人でバラを見て回り、三人でお弁当を食べた。
ティナレスさんの「おいしい!」という褒め言葉さえ、私は素直に受け止めることができなかった。
そんな自分の心の狭さが少しだけ嫌になった。



「楽しかったわ、綱吉。奥様もありがとうございました」

「…いいえ…」

「今度は私がつくってきます。奥様の味には劣ってしまうかもしれないけど」

「そんなことありません。…楽しみに、しています」



心にもないことを言ってしまった。
でも、その言葉も彼女との約束になってしまうようで「はい、じゃあ今度お弁当を作ってきますね」と笑う。
その言葉でさえあいまいに笑って肯定できない私。…自分がどんどん醜くなっていくようで、さらに嫌になった。

じゃあね、綱吉。

そう綺麗な笑顔で綱吉に手を振って去っていくティナレスさん。
綱吉は何も言わずただ手を挙げて応えただけだった。

二人きりになっても、お互い何も言葉を発することはなかった。
…なんて話したらいいのか、わからなくて。
バラ園に来た時とは逆の静けさはなんだか私たちの間に溝ができたみたい。
そう感じているのは私だけじゃないはず。



「…ごめん、姫。まさか、ティナレスがいるとは思わなくて…」

「謝ることはないです。…ティナレスさんと会ったのは偶然ですから」



きゅ、と唇を噛みながら内心、どうして謝るところがそこなのだろう、と理不尽なことを考える。
会ったのは偶然。仕方のないことだ。
でも、腕を組んだり、私以上に話していたり、…あぁもう自分がどんどん嫌な人間になっていくようでうんざりする。
自己嫌悪と綱吉に対する八つ当たりでじわりと涙が浮かんだが、ここでは泣きたくないと一生懸命こらえ、綱吉から顔をそむける。
すると、ぱっと右腕をつかまれたかと思うと綱吉に体を引き寄せられる。



「姫、言いたいことを溜め込まないで。全部吐き出してよ」

「…っ、でも、」

「いいから。吐き出して」



綱吉の表情は見えない。…でも、声はどこまでも優しい。
そのぬくもりに誘われて、私の涙は止まらない。

…言っても、いいのだろうか。こんな真っ黒でドロドロな感情を。



「…、…いや、です。…どうして、腕を組むんですか。どうして、もっと強く断ってくれないんですか。
本当は…すごく、嫌でした。綱吉の隣は、私じゃ、ないんですか…?」

「…………」

「…綱吉の、ばか。…でも、本当にばかなのは、私…っ」

「…、…ばかだよな。…ごめん」



ぎゅ、と強く私の体を抱きしめる。
泣いている私の耳をくすぐる言葉は謝罪なのに、声はなぜか嬉しそう。
そのことが、私の怒りの導火線に火をつける。



「私っ、怒っているんですよ!?綱吉は誰にでも優しいんですっ!
ティナレスさんのこと、何とも思っていないならもっと冷たくしてもいいのに…っ!
…って、もう、こんなこと、言いたくないのに…綱吉に、こんな醜いところ、知られたくないのに……」

「…うん、ごめん。こんなこと言ったらもっと怒るかもしれないけど…オレ、姫に嫉妬されて、今、…めちゃくちゃ嬉しい」

「えっ……」



ぽかん、とする私に綱吉の嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。
嫉妬されて、嬉しい…?どうして?普通、うっとおしいものじゃないの?
そんな私の心の声が聞こえたのか、嬉しいよ、ともう一度囁いた。



「いっつも嫉妬するのは俺ばっかりだったから…正直、ティナレスのことは参っていたけど、嫉妬する姫を見れたのは、…よかったな、って思ってたり。
……って、こんなこと言ったらまた姫に怒られそうだけど」



ごめん。

そう嬉しそうにいう綱吉に、私の肩の力がどんどん抜けていく。
…あぁもう、これだから綱吉には敵わない。
そんなことを言われてしまったら、私は何も言えなくなってしまうじゃない。

きゅっと綱吉を抱きしめ返して、私こそごめんなさい。と囁くと綱吉が私の髪を優しく撫でて体をゆっくりと離す。



「デート、もう一度やり直そう」

「はい」



ふわりと笑い返すと綱吉が自然と私の手を握り、歩き出す。

幸せいっぱいの私たちが夜遅く帰ってきて、リボーンにからかわれたのは言うまでもない。

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