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「だから言ったでしょう?…気を付けなさい、と」
「あ…六道さま」
「クフフ…わかりやすい人だ。ティナレスのことでしょう?」
顔にどうしたらいいんだろう、と書いてありますよ。
そう言われて、そんなにわかりやすいのだろうかと眉を下げる。
六道さまに言われたことは図星であり、無理に笑うこともできなかった。
…そういえば、ティナレスさんに初めて会ったパーティー前に六道さまに言われていた。
『気を付けなさい』と。
何を気を付けないといけないのか、…いや、あの時の私は任務も兼ねたパーティーだったから、身の危険だとばかり思っていた。
「…ティナレスさんのこと、ご存知だったんですか?」
「彼女はニューヨークにある会社の社長令嬢で、以前、マフィアに狙われるからと沢田綱吉がボディーガードをしたんですよ。
ニューヨークに一時期帰っていたのですが、また帰ってきたと聞いていたのでね」
「………」
「彼女、君に仕掛けてきたんじゃないですか?」
クフフ、と何故か楽しそうに笑う六道さまに困ったように笑い返す。
…確かに『仕掛けた』と言われたら『仕掛け』られたのだろう。
でも、それがティナレスさんの悪意があるわけではないと思う。
ティナレスさんからいったら私の方が悪い女なんだろう。
だって、恋人と離れ離れになって、ようやく側にいられるようになったのに、傍にいるのは見知らぬ女。
確かに私が逆の立場だったら、「何、この女」と思うはず。
「…私…ティナレスさんの気持ちがわかるんです」
「……?」
「長い片想い、してましたから」
だから、ティナレスさんが嫌いとか苦手とか思えないんです。
そう困ったように笑うと六道さまは珍しく驚いたように目を大きく見開いていた。
そしてまじまじと私を見つめると、…何故か大笑いされてしまった。
「クハハハ!!やはり、君は面白い」
「…面白い要素がわからないのですが…」
「クフフ…まあ、いいんですよ。…なるほどね…なら、心配はいらなそうですね」
「心配?」
「おや、僕としたことが口を滑らせてしまいました。…ま、精々がんばりなさい」
また、任務のようですよ。
そう言われて、手渡された分厚い書類。…それは、再び潜入して、麻薬の密売の現場をおさえ、黒幕を捕まえるように計画されたものだった。
「…また、私と綱吉ですか?」
「ええ、そのようですよ。…皮肉なものですよね」
「…?どういう…」
「おや、口が滑ってしまったようだ。…では、僕はこれで」
気をつけて。
そう含みをもたせて言い残すとすぐに六道さまは霧のように姿を眩ませる。
…2回目の『気を付けて』にさすがの私も予想がつかないわけじゃない。
ティナレスさんに気を付けて、という意味。…もしかしたら、六道さまが遊んでいる可能性もあるが…その低い可能性を信じるほど楽観的でもない。
一体何が、と目に見えない不安にそっと胸の前で手を握り締めた。
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