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「……で?」
この上なく幸せそうに微笑む姫に思わずつっこむ。
にやにやと笑みがこぼれるのを止められないほどなのだから、よほど幸せなのだろう。
それはいいことだが、僕が聞きたいのはそんなことじゃない。
姫は僕の突っ込みに「え?」と首を傾げていたから、あっさりと聞き返す。
「そのあとキスでもセックスでもしたわけ」
「っ!!??な、な、な、」
「…はぁ…まぁ君たちだから期待はしてなかったけどね」
真っ赤になる姫を見て、ため息をつきながら呆れる。
この奥手二人は一体いつになったら進んでいくのか……
そういえば好きだと伝えあったのも僕が言ったからじゃなかったか、とかこれってデジャブ?なんて考える。
姫が目を覚まして、三日。
残党処理も片付いてきて、一息つけるようになってから姫のお見舞いに来た。
顔色を見るといいようなので、少しだけ安心する。
ことの流れを聞いてようやく勘違いも解けたかと安心したのもつかの間。
この二人は言葉で思いを確かめ合っただけで満足したらしい。
またこのパターンかとさすがの僕も呆れる。
綱吉も綱吉だ。男ならキスでもなんでもすればいいのに、なんで手を出さないのか。
大切にしているといえば聞こえはいいが、見方によればただのヘタレじゃないか。
「キ、キスだなんて…そんな…」
「…は?ちょっと待って、なんでキスなんかで顔赤らめてんの」
「だって…まだ、したことないですし…」
「はぁ?」
姫の言葉に僕もドスのきいた声を出してしまう。
なんだって…?キスもしたことがない?あの綱吉がキスもしてないだって?
一体綱吉はこの子をどこまで甘やかして、へたれているんだ。
呆れを通り越して逆に感動する。
やってられない、と投げやりになっていると近づいてくる気配にいいことを思いつく。
これくらいの悪戯ならいいでしょ。この僕を巻き込んだ罰だよ。
にやりと笑って姫の髪の毛をさらりと撫でるとそのまま顔を近づける。
姫は「どうしたんですか?」と首を傾げていたけど、「しぃ」と声を出さないように言う。
見知った気配は病室の前で止まり、息をのんだ気がした。
さて、どうするか。
―――バンッ!!
「雲雀さん!!!」
「ま、頑張りなよ」
「え?」
「一体どういうつもりですか!!」
綱吉が僕の肩をつかみ、無理やり姫から離される。
怒っている綱吉に、さぁ?と笑ってぐいっと綱吉の胸倉を掴みあげた。
「そんなに大切なら、鳥籠の中にでも入れておけば」
「…っ」
「ま、それもできないんだろうけど」
じゃあね、と言って綱吉から手を離すと僕は病室からさっさと出ていく。
後はあの二人の問題だ。
…ま、なんだかんだ言って、うまくいってほしいと思っている自分がいるんだけどさ。
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