僕には愛が足りません
「…姫、」
「……っ」
甘ったるい声で名前を呼ばれてびくり、と肩が強ばるのが自分でもわかる。
不安げにローの目を見れば自然と重なる唇。…いや、重ねられた、がしっくりくる。
そのままねっとりとした口づけをされ、頭がぼぉっとしたがそれはすぐに冷めた。
…背中にベッドの感触があって…押し倒された、と気づいたら。
慌ててローの胸を押し返し、
「……だめ」
と舌足らずな声で言えば、ローの機嫌が急降下していくのがわかる。
またか、と言われなくても雰囲気だけで言われていることくらい察せられたが気まずくて何も言えなかった。
…ローと“幼なじみ”から“恋人”という関係になって1年……私は大きな壁にぶち当たっていた。
それは…直接的に言うとローとの体の関係のこと。
最初は一緒にいて、時々キス、とかそんな感じでよかった。
けど…大人に近づいていく私とローは次第にそれ以上があることを無意識の内に知っていく。…子孫を増やすことは遺伝子レベルの話だから…自然とそういうことは理解できた。
でも、頭が理解していても心は理解できていなかった。
…正直に言おう。怖い。ローとそういうことをするのが怖いのだ。
未知の世界だし…私が知る限りではローも未知の世界だろう。
私はまだそういうことは早いと思っているのだが…ローの考えは違った。
私とそういうことをしたいらしい。
これまで何度も迫られた。…けど、私が止めてローは諦めてくれた。
ローは優しいから私が嫌がることはしないし、無理矢理、というのも嫌だって言ってくれた。
でも…やっぱり拒みすぎたのだろうか。
今のローは機嫌が最悪だ。それはもう、今までにないくらい苛立ってる。…けど、したくないものはしたくない。
それが…例え大好きなローであっても、だ。
(私はまだ、子供すぎる)
「…ちっ…なら、煽るようにキスなんかすんな」
「……っ、ごめん…」
「………っ…!」
目を逸らしながら小さな声で謝ればローは苛立ちも露に立ち上がり、乱暴にドアを閉めて出て行ってしまった。
…私は、引き止めることなんて…できなかった。
僕には愛が足りません
(愛し合いたい、それは悪いことですか?)
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