ズルしてでも欲しいきみの心



次の日の朝…姫はマストの側で蹲りながらずっと考えていた。…ローが帰ってこないわけを。
いつもなら姫が船番の時はすぐに帰ってくるか遅くても夜には帰ってくる。
けど…今日は朝まで帰って来なかった。…と、いうことは…そこまで子供じゃない姫は何となく察していた。
けど、信じたくなかった。…ローは自分のことが好きだと信じたかったから。


―――かたん、




「……!あっ…ロー…」

「………」

「…おかえり」




小さく笑いかけてみたがローは目を反らし、何も言わず姫の横を通り過ぎた。

…と、同時に香る、甘い女性の香水の香り。
ふわり、と強く香ったことに泣きそうになりながらもぐっと堪えてロー!と彼を呼び止める。
…弱い自分は…一番嫌いだった。だから、もう、


泣かない。




「ありがとう!…ごめんね……



別れよう、キャプテン」

「なっ…!」

「これからは仲間として、航海士として、キャプテンを支える。
……私じゃ、女としてキャプテンのこと、支えられなかったみたい」

「待て、違っ…」

「違わない!!」




いつも、笑っていた姫が初めて出した大声にローは思わず口を閉ざす。
振り向いた姫は涙を浮かべながらも決してそれを零すことはなかった。
そんな姫の目を見つめ…ローは姫が本気だということと、…自分の行動に酷く傷つけられていることにやっと気づいた。
いや、本当は…姫はローの行動に傷ついたのではなく、自分の腑甲斐なさに情けなく思っていたのだ。

ローが他の女の人を抱いたのは自分のせいだと。我慢させてしまった自分が悪いのだと。




「…私…この船のクルーが大好きだから……だから、航海士として、船に居させて。…お願い」

「……姫、オレは、」

「……!ローっ」



―――パァァンッ!


赤い血が、舞う。散る。



ズルしてでも欲しいきみの心
(でも、それは間違いだった)

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