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―――あれから数年……

オレは大学を卒業して医者として大学病院に勤めていた。
今年も桜が見事に咲き誇り、オレの前を花びらがひらり、と通りすぎていく。
掴むこともできず、オレの手を零れ落ちていった花びらに小さく自嘲が漏れた。

…まるであの時のアイツみてぇだな。

あの時オレが彼女の腕を掴み、行くな、と言っていたら何か変わっていたのだろうか。
…そんなこと考えるのも今更、か。

よく晴れた憎らしいくらい眩しい青空を見上げて目を細めれば、トラファルガー先生、と近くで呼ばれてゆっくり振り向く。
側に立っていたのは内科かどっかのナースで艶やかな笑みを浮かべていた。
その笑顔が妙に癪に障るのは、桜の下だからだろうか。
そんな関係ないことが頭を過る。




「先生、今日の夜は空いてらっしゃる?」

「…あぁ」

「なら、今晩…抱いてくださらないかしら」

「………」




するり、といやらしく腕を撫でられ心が冷めていくのがわかった。

…これが、オレ。アイツを失ってその穴を埋めるために誰であろうと体を重ねてきた。
もうそれが当たり前で、…アイツのことを忘れるための手段でもある。
いいぜ、と囁いてやれば途端に赤く染まっていく頬。
それをどこか冷めた目で見ながらオレは病院内に戻っていった。




「ロー先輩!」

「…何だ、シャチか」

「なんスかその言い方!もっと嬉しそうにしてくださいよー!」

「うるせぇ。…で、どうした」

「あぁそうだ、ビッグニュースですよ!院長が海外ですげぇ大きな手術を成功させた外科医を引き抜いたらしいです!」

「へぇ…」

「へぇ、って…リアクション薄くないですか?」

「興味ねぇな」




ばっさりと言い放ったオレにシャチはローさんらしいなーっと明るく笑った。

院長が誰を引き抜こうと関係ない。
オレはオレの仕事をするまでだ。
…邪魔だったらそいつを消すし、支障がないなら放っておく。

この時のオレはただそれくらいしか思ってなかった。

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