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「トラファルガー先生、今晩空いてます?」

「あぁ、空いてるが…」

「よかった!姫先生の歓迎会をしようかと思ってるんです。一緒にどうですか?」




その日の夕方、診察時間も終わった頃同僚の医者にそう声をかけられる。
……姫の歓迎会、か。
何時もならそういう面倒な飲み会にはいかないが、今回は姫も行く。

…記憶のねぇ姫に会うのが辛いくせに、少しでも姫と会いたいと思う自分の矛盾に小さく自嘲した。




「…参加しよう」

「本当ですか!?いやートラファルガー先生がいらっしゃるなんてレアですね!嬉しいなぁ」

「………」

「じゃ、19時にそこの居酒屋に集合でお願いします!」

「あぁ」




妙にテンションの高い同僚を見送ってオレは帰る用意をし始める。
19時から、と言っていたがその約束の時間は近い。
…明日も仕事があるし、飲まねぇ方がいいな。
車で帰るか、と車の鍵も持って部屋を出ると待っていたように外科のナースの一人がオレに近づいてきた。




「先生も姫先生の歓迎会に行かれるんですか?」

「あぁ」

「私もなんです。…一緒に行きましょう?」




するり、と絡んでくる腕に押し付けられる胸。
これが日常茶飯事だったが、姫に会ったせいか嫌悪感を感じて少し乱暴に振りほどく。
…大した変化だな。姫に見られているわけでもない、ただこの病院にいるってだけなのに。
振りほどかれたのが予想外だったからか、プライドを傷つけたのか女の目が大きく見開かれる。

それを無視して歩き出すと女は「な、何で…っ」と呟いたがそれ以上は何も言ってこなかった。
…病院の中だから、というのもあるだろう。患者や同僚の目もある。
賢明な判断だな、と内心鼻で笑って約束の場所に向かった。

居酒屋というのは病院から少し離れている。
患者の関係者に酒を飲んでいるところを見られるのはあまり歓迎すべきことではないからだろう。
だから場所などわかりにくいところにあるのだが……まさかそんなところに姫が一人で向かっているとは思わなかった。
しかもあの様子では、道に迷っているのだろう。
何度も手元にあるスマフォを見ては道をキョロキョロしている。

…そういえばアイツは方向音痴だったな。
だったら一人じゃなく、誰かと一緒にいけばいいものを。

そう呆れながらもどこか姫らしくて小さく笑う。
こうやって困っているのを眺めているのも悪くないが、時間が迫っている。
さて、助けてやるか、と一歩踏み出した途端、誰かが先に姫に声をかけていた。
…病院の人間ではない。困った顔がさらに困ったように歪められたことから面倒な勧誘とかなんだろう。
早足で姫に近づき、そっと隣に体を寄せると「待たせたな」と声をかけた。

姫はオレだとわかるとかなり驚いたようで目を大きくしてオレを見上げる。




「オレの女に何か用か?」

「…ちっ、何だ彼氏持ちかよ」




男は小さく悪態をついてオレたちの前から姿を消す。
姫にナンパなんて百万年早ぇんだよ。

フン、と嘲笑うように鼻で笑ってやると姫がオレの名前を呼ぶ。




「ありがとうございます、助かりました」

「気をつけた方がいいな、無防備すぎる」

「…みたいですね。気を付けます」

「あぁ。…まだ危ないかもしれねぇから一緒に行くぞ」

「え…!あ、ありがとうございます…」




元々迷っている姫を連れていくつもりだったから丁度いい言い訳ができた。
姫が行こうとしていた道とは逆に足を進めれば姫は「あ、こっちだったんだ…」と小さく呟いたのだった。

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