君にドキリとした日



ーーー不思議な人。

それが私の第一印象。




「ロー先生、207号室の患者さんなんですが」

「あぁ、それは、」




カルテを見ながらどうしていくべきなのかを話し合う。
その意見はかなり的確で私も勉強になるばかり。
こんなにも優秀な人が同じ年とは思えなかった。

それに……




『姫、』




初めて会ったはずなのに、初めて会った気がしなかった。
…実際、初めてじゃなかったみたいだけど。

私はある手術の後遺症で全ての記憶を失ってしまった。
学習面の記憶はあったんだけど…日本にいた頃の記憶は全くない。

ロー先生は以前の私を知っていたようで私に一番早く話しかけてくれた。
何かと気にかけてもくださるし、この間の飲み会も道案内してくれて……

多分、しつこい先生から助けてくれた。


あの時私はベタベタ触ってくるあの先生から離れたかったけど、話しかけてくるし、席を立つ理由もなくて困っていた。
馴れ馴れしいからやめてください、と言えればよかったが新人の手前そんなこと言えるはずなく。
どうしよう、と困っていたときにロー先生は水を溢した。

最初は最悪って思ったけどその後謝ってタオルを貸してくれて…あの場から離れさせてくれた。
その時に思ったの。…わざと水を溢したんじゃないかって。

もちろん、彼はそんなこと一言も言わないんだけど、でも、何となくそうなんじゃないかって思った。


……本当は、不器用だけど優しい人。



私もできたら彼のことを思い出したい。
一体私と彼はどういう関係だったんだろう。

…最初に向けられた、優しくて…でもどこか激しい感情を秘めた目の意味は、何だったんだろう。




「…姫、先生」

「あ、はい。何か不備がありました?」

「いや。…今日の夜、時間ないか?」

「え…?」




思わずロー先生をまじまじと見つめてしまった。
…まさか、ロー先生に誘われるなんて、思っていなかったから。
飲みに行くって多分二人で、だよね…?
ふ、二人で飲みに行くなんて…!で、でもでもこれって昔のことを思い出すチャンス!?

あまりにも見ていたからかロー先生は「そんなに驚くか?」とからかうように笑った。
そのことが恥ずかしくて慌てて目を逸らすとロー先生はフフッ、と再び小さく笑う。
…そんなに笑わなくても。




「今日、ペンギンとシャチっていう昔からの友人と飲む約束がある。
シャチはこの病院の内科だから姫先生と話す機会がないってうるせぇ。…二人とも気はいい奴らなんだが…どうだ?」

「(あ…二人きりじゃないんだ…って何でがっかりしてるの私!)は、はい!行きます!」

「なら、帰りに迎えに行く。また6時にな」

「はい」

「…あぁ、そうだ」




二人きりはまた今度な?




「っえ…!」



にやり、と笑って去っていくロー先生の背中。

…私、絶対今顔赤い……



君にドキリとした日

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