変わらない君を見つけた日



その日、仕事が終わると姫に声をかけてシャチとペンギンと合流する。
姫の記憶のことはすでにシャチにも伝えていたから、シャチは少し寂しそうに、でもアイツらしい明るい笑顔を浮かべて「はじめまして、シャチです!」と自己紹介していた。
姫は相変わらず華やかな笑顔でシャチに自己紹介し返す。
シャチもその笑顔があまりにも変わらなくて懐かしくなったのか、一瞬目を大きく丸くした。
そして姫にわからないように顔を背けるとごしり、と目を擦って姫に再びにかっと笑いかける。
その目がまだ少し潤んでいたことは、オレしか知らない。
その様子にオレはシャチの頭をぐしゃり、と撫でてやり「行くぞ」と店に向かうため、歩き出した。

後ろでは姫に聞こえないように

「よく我慢したな」

「うるせぇ!目にゴミが入ったんだっ」

なんてペンギンとシャチのやり取りが聞こえた。




「んじゃ、新しく来た姫先生に乾杯!」

「「「乾杯!」」」




かちり、とグラスを合わせて酒を飲む。




「やっぱり仕事終わりの酒はうめぇ!」

「シャチ、親父くさいぞ」

「うるせぇよ、ペンギン!」




そんなやり取りに姫が「仕事終わりにはおいしいですよねー」とからからと笑う。
だろ!?とシャチは身を乗り出すとあ、とバツの悪そうな顔をする。
恐らく昔の癖で思わずため口で話してしまったからだろう。
姫はそんなシャチに少しだけ首を傾げたが、理由がわかったのか気にしてないですよ、笑った。




「むしろ、ため口の方が嬉しいです」

「な、なら!!姫…先生も、オレにため口で!
それにシャチって呼べよ!同じ年なんだし!」




な!と少し声を上擦らせながら勢いよく言うと姫は嬉しいのか「うん!」と顔を綻ばせた。
ペンギンもそれに乗じて「オレもペンギンでいい」とため口。
ローさんは、とばかりにシャチがオレを見上げてくる。

…実際、姫はオレを名前で呼ぶが先生をつけるし、敬語だ。
そのことが気に入っていなかったのは、事実。

一口ジンを口に含むと姫を真っ直ぐ見つめる。




「…オレもため口でいい。先生もいらねぇ」

「…うん!わかった、


ロー」




姫の柔らかい声がオレの名前を呼ぶ。

…あぁ、この声だ。
ずっとこの声を待ち続けていたんだ。…ずっと……

シャチじゃないからオレは泣いたりしないが、らしくもなく心が揺さぶられる。
そんなことも知らない姫は嬉しそうに笑ったのだった。



変わらない君を見つけた日

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