ヒーローは遅れてやってくる。



「わっ…もうこんな時間…」




体育祭も明日に控えた今日は最終確認のために姫も閉校時間ぎりぎりまで残っていた。
最近多い、と思いながらもこれが生徒会長の仕事なのだから仕方ないとも思う。
早く帰らないと母が心配する、と癖で考えたが今日はお仕事でいないんだった、と思い出した。

…それでも早く帰るにこしたことはない、と姫は早足で学校を出る。




「(…暗い…)」




街の灯りがあるがやはり、夜。少し見づらい。
お化けとか出そう、なんて笑えないことを思っているとすっと目の前に現れる影。

お化け…ではなく、人間。しかも女性。

少々お化粧が濃く、香水が混ざっていて思わず眉を顰めた。




「ご機嫌よう、ルチア様」

「…ご機嫌よう…あなた方は?」

「………あなた、何様のつもり?ルチアという地位に調子に乗っているの?
…っ、これ以上ロー様に近づかないでっ!」

「トラファルガーくん…?」




姫の誰かという問いを無視して一気に本題という名の言いがかりをつけられる。

そんな中、どうしてここで彼が出てくるのだろう、と姫は小さく首を傾げた。

ローとはクラスメイトという関係で初めて話したのはつい最近だ。
ずっと仲がいいというならわかるが、まだ仲がいいとも言えるかどうかも定かでない関係。

疑問で聞いたことが癇に障ったのか彼女は出てきなさい!と叫び…後ろにいたのか、2、3人の男が前に出てくる。
さすがの姫もその行動に危険を感じて一歩だけ引き下がれば嫌な笑顔を向けられた。

そんな彼らに姫は心の中だけで罵る。…下品、と。




「すっげーいい女だな!さすが大空学園!」

「ホントに好きにしていいのかぁ?」

「えぇ。好きにして」




私は絶対嫌なのだけど、と呟きながら迫ってきて腕を掴もうとした男を避けて逆に捻りあげる。
護身術は一応良家の子女として嗜んでいる。そこら辺の男には負けない。

…が、それは力がある場合、だ。

いくらテニスをして鍛えていると言っても女と男の力の差は大きい。
一人は倒せても二人、三人目は簡単にいかず…力加減もなしに手首を掴まれ、壁に押さえつけられてしまった。




「…っ、離して!」

「へへ、可愛いな。怖いのか?肩、震えてるぜ」

「…っ嫌!早く離して!!」

「そういわれると…滅茶苦茶にしたくなるんだよなぁ」

「……っ!!」




ぞわり、と嫌悪感から鳥肌が立つ。…太ももを撫でられたから。

女として身の危険を感じた姫は暴れるが、バシリッと顔を殴られる。
その痛みと自分の弱さが情けなくて見せたくなかった涙が零れた。

泣けば男が調子に乗るとわかっていたから、泣きたくなかったのに。

最悪、と呟き、目を瞑ると、


―――ふわり、と優しく抱き締められた。




「え…?」

「…、…姫」

「あっ…トラファルガー、くん…?」




微かに香る男物の香水に、低い…聞いたことのある声。

震える体を掻き抱くように強く抱き締めるローに小さく問えば、こくり、と頷く気配がする。
知ってる人、というだけで安心感が心を落ち着かせて姫から力が抜けて思わずローにもたれかかっていた。

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