優しい声、優しい涙
「…少し…目、瞑っとけ」
「…うん」
落ちてくる声に目を瞑ると体がふわりと浮いて地面から体が離れる。
所謂、お姫様抱っこをされていた。
姫はそれでも目を瞑り続けているとガチャリ、という音が聞こえて思わず目を開ければ…大きなマンションの一室の鍵をローが開けていた。
もしかして、と思っていればソファーに優しく下ろされて、ぎゅうっと抱き締められる。
その突然の行動に姫は困惑したが、突き放す気にはなれなかった。…一瞬だけ見えたローの表情がとても苦しそうだったから。
「…トラファルガーくん」
「……っ、」
「…ありがとう」
「…っ!?」
「助けてくれて、ありがとう」
名前を呼んだだけなのにびくり、と跳ねた肩に姫は何となくローの気持ちがわかった。
…姫が、ローのせいで傷ついたのではないかと恐れているだ、と。
あの女性は言っていた。ロー様に近づくな、と。
つまり、自分のせいで姫か襲われてしまったのだ、とローは思っている。…実際、ローはそう思っていた。
自分が…エースという姫に近い男が出てきて、焦って姫に近づいてしまったことが原因だと。
しかし、姫はそんな風に思っていなかった。…ローを嫌いになるなんて論外。
ローのせいではない、と…ローが本当は優しい人だと知っているからそう思えた。
もし以前の…何も知らない姫だったらローを嫌いになっていたかもしれないが、今はローのことを少しだけ知っている。
本当は優しい人。現に今だって自分のせいだと責めている。…それだけで、姫は誰も責める気にはなれなかった。
そっと姫はローの背中を優しくとんとんと叩いて大丈夫だよ、と囁く。
その優しい手にローはぎゅっと姫を抱き締めた。
「…変わらねぇな…」
「えっ…?」
ローの小さな囁きに聞こえず、聞き返したがローは首をふり、抱き締めていた力を少し緩める。
そして、未だ震えている姫の体を安心させるように頭を優しく撫でた。
「……強い女。…本当は、怖かったんだろ。無理、しなくていい」
「そんなこと…っ」
「恐がらせて、悪かった……泣いていいから、」
「……っ、」
誰も見てねぇよ。
そんな教室では聞いたこともない優しい声音に姫の涙腺がふわりと弛んだ。
…本当は、すごく…すごく怖かったのだ。
知らない男に初めて性的恐怖を感じた。…直感的に、嫌悪を感じた。
怖くて堪らなかったけれど、ショックが抜けなくて泣くことも忘れ…こうやってローに宥められてようやく泣くことができた。
静かに泣き始めた姫の涙を受けとめるように、ローはずっと姫を抱き締め続けた。
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