ふわふわオムライス



姫が一通り泣き終わると、どうやら今の状況…ローに抱き締められていることに気がつき、顔を真っ赤にしながら「…ありがとう、」と小さく呟きながらローからゆっくり体を離す。
ローはそれを少し残念に思いながら姫の頬に手をあて、いたわるように口の端を撫でた。

…自分の傷が痛むかのように眉を顰めて。




「…腫れてるな」

「あ…そういえば…」

「ちょっと待ってろ」




殴られて赤く腫れているらしい。
ローはすぐにソファーから立ち上がり、氷を袋に詰めて姫の頬に当てる。ワンクッションとしてタオルに包んで。
さすが医師を目指すだけあってその治療は適切なものだった。




「他に痛むところは?」

「ないよ…大丈夫」

「…そうか。…シャワーでも浴びていくか?」

「ううん…帰ってゆっくり入るね。
…トラファルガーくんは、一人暮らしなの…?」

「……あぁ」




そっか、と頷きながらも姫は小さな違和感を感じていた。
…一人暮らしのはずなのに、香水の残り香が何種類か混じっているように思ったから。
お母様が何度か来ているのかも、という理由をつけて納得させてちらりと時計を確認した。

…すでに時計は10時近い。




「…ご飯、食べた?」

「いや、まだだが…」

「お礼に何か作るよ。簡単なものしか作れないけど…何がいい?」

「…いいのか?」

「…?もちろん!」




にこり、と笑うとローはわからないように安心しながらも何でもいい、と言った。

…姫が作ってくれるなら、何でもいい。

そう言いたかったが、さすがのローも恥ずかしくて言わなかった。
姫はじゃあすぐに作れるオムライスとか!と楽しそうに腕を捲って冷蔵庫勝手に開けるね、と了承をとり、冷蔵庫を開けた。
幸い必要な材料は揃っていたので姫はすぐに作り始める。
いくらお嬢様と呼ばれる人間でもお料理は嗜みの一つ。結構何でも作れたりする。




「できたよ!時間がなくてデミグラスソースは作れなかったんだけど…」

「…いただきます」




目の前に置かれた久しぶりに誰かが作ってくれたご飯に普段言わない挨拶をしてスプーンで卵を崩す。
ふわふわとしていて、ケチャップライスだったのが妙に可愛く思えた。
ぱくり、と一口食べれば姫は不安と期待を入り交ぜたような表情でローを見つめる。
そんな姫にローは小さく…とても柔らかく微笑み、




「…うまい」

「…!よかった…!」




安心したようにふわり、と微笑んで自分もスプーンを持った姫に再び笑って、ローは今までにないくらい穏やかな時間を過ごした。

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