変わる糸口
「ありがとな、借りられてくれて」
「う、ううん…」
借り物競争を一位で突破した姫とロー。
ゴールまで走るとローはゆっくりと姫を地面に降ろした。
緩やかに笑みを浮かべるローに何だか気恥ずかしくなって小さく俯く。
…ローが何故自分を選んだのか聞きたい気持ちと、聞いたら何か変わってしまいそうで怖い気持ちが入り交じる。
「…何で、って顔だな」
「え…」
「教えてやろうか?」
優しく引き寄せられたかと思えば目の前に迫るローの顔。
発言とは裏腹にローの目がすごく真剣で、姫は思わず戸惑った。
……知りたい。でも、知りたくない。
そんな気持ちを込めて彼の名前を呟きかけたが、
「姫に気安く触んな、トラファルガー!」
「え、エース…」
「…邪魔が入ったな」
姫の顎に手をかけるローの間に姫を庇うように睨みながら入ったのはエース。
自然と姫から離れたローは睨み付けるエースを軽くかわした。
姫といえば突然現れたエースに驚きはしたものの、ローが離れたことに関して少しだけホッとしたのだった。
…あのままだったら、きっと心臓が早く動きすぎて立っていられなくなりそうだったから。
「理由はまた今度、な」
「…っ、」
それだけを言ってローは二人に背を向け、どこかに行ってしまった。
その背中を一人は顔を赤くして見つめ、一人は強く睨み付けていた。
「…姫、大丈夫か?」
「…っ、う、うん!大丈夫だよ」
「…ならいいんだ!よし、オレ達も戻ろうぜ!」
「ごめん、エース!今から生徒会のテントに行かなきゃ…」
「そっか…じゃあまた後でな!」
にかっと太陽のような眩しい笑顔に姫も柔らかく微笑み返す。
またね、と言って生徒会テントに一人で向かっていけば自然と思い出す、ローの体温や言葉。
〜…っ、恥ずかしい…!
いくら鈍感だとよく馬鹿にされる私だって何で私を選んでくれたのか、理由くらい思い付く。
もし私の自惚れじゃなかったら、もしかしてトラファルガーくんは私のこと……
「…っ、あり得ないよ…」
あのトラファルガーくんだよ?
容姿も整っていて、女の子で好意を寄せている子はたくさんいるって噂を聞いたことがある。
しかもかなり優秀で頭もいいし、運動だって普段はあまりしないけど今日の体育祭を見る限りできると思う。
それに怖そうな雰囲気だけど、本当は優しくて仲間思いの人。
まさに完璧な人が私を…だなんて、あり得ないよ…!
「姫、お疲れさま。大変だったわね」
「やっぱりあり得ないよね…」
「……姫?」
「………あっ、ロビン…!」
「どうしたのかしら、何かトラブルでもあった?」
「ううん、それは全然…」
「……もしかして、彼のことかしら」
「えっ…!?い、いや、トラファルガーくんは別にっ…!」
「ふふふ、誰もトラファルガーくんのことだとは言ってないわよ?」
「……っ!!」
楽しそうに笑うロビンに対して姫は顔を真っ赤にする。
普段の姫ならこんな簡単な誘導尋問なんかには引っ掛からない。
もっとさらっとかわすはずなのに、その余裕が全く見られなかった。
そんな姫を可愛らしく思い、ロビンはこれから変わっていく関係の糸を感じていたのだった。
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