無自覚と自覚の狭間



「それで、何に悩んでいるのかしら?」

「…う…あの、」




実は、と姫は素直に悩みを打ち明けた。

自惚れかもしれないがローが自分のことを気に入っているのではないか。
…そして自分の気持ちはどうなのかわからないことを。

ローといると安心して心が温かくなる半面…ドキドキして落ち着かなくなる。
触れられると嬉しいようなくすぐったい気持ちになる半面、心臓が爆発しそうなくらい痛い。




「これが、恋なの…?」




戸惑いを隠せないまま、姫はロビンを見上げる。
そんな姫にロビンは慈しむような笑みを浮かべた。
自分の気持ちに気づかない姫。…いや、気づきかけているが、それが恋とわからないとは何て初々しい。

かわいいわ、とロビンは心の中で呟き、姫の頭を撫でた。




「慌てることはないわ。姫のペースで、その答えを見つけてみて」

「ロビン……、…ありがとう」




ふわりと気持ちが少しだけ軽くなる。
自分の気持ちを無理矢理自分で結論づけなくてもいい。…きっといつか自然にわかる。
そう言われたようだったから。




「姫ー!次出番よ!」

「ありがとうナミ!今行くね」




遠くでナミに呼ばれて、姫は大きく返事をする。
そんな姫にいってらっしゃい、とロビンは優しく微笑んだ。

姫は再びありがとう、とお礼を言って駆け出す。

―――気持ちは随分軽くなっていた。



―――……
――…
―…




『最後のプログラムになります!赤対白のリレー対決!!今年は何とぉ…ルチア様がアンカーだよ!』




そんな放送の声に大きな歓声がグラウンドに響き渡る。
選手は男女交互に並んでおり、姫の前にはエースが座っていた。
…そしてローがトップに並んでいる。

この競技はブロックの勝敗を決める大切なもの。
当然、責任は重くなる。

姫との一騎討ちの相手は陸上部エースの女の子。
勝ち気な性格で、かなりの負けず嫌いだとか。

姫も負けず劣らずの負けず嫌いなので、がんばろう!と意気込んだ。




「姫」

「…どうしたの?」




選手の紹介が終わるとエースは真剣な表情で振り向いた。
そんなエースに姫はきちりと身構える。




「絶対一位でバトンを渡す。だから、負けるなよ!」

「エース…、…うん!がんばる!!」

「よし!」




ニシシ、と笑うエースに姫も思わず笑っていた。
姫にのし掛かっていたプレッシャーはいつの間にか軽くなり、姫は心の中で小さくエースにお礼を呟いた。

よし、と気合いを入れて前を向くとローが選手として立っているのが目に入る。
その顔はどことなく面倒そうだが、雰囲気はとても引き締まっているように感じた。
その横顔を少しだけ見つめているとふとした瞬間、姫と目が合う。
思わぬ時に目が合ってしまい、姫は恥ずかしさに慌てているとローは小さく…本当に小さく、優しい笑みを浮かべた。

…その笑みがあまりにも優しくて、胸が締め付けられたから。
だから、姫は時を忘れたようにローを見つめていた。




『位置について…よーい、』



パンッという音と同時に沸き上がる歓声。

その声に姫はようやく我に返り、慌てて応援をし始める。
ローの走る姿を姫は初めて見たがすごく速く、既に赤との差をかなりつけていた。

ドキドキと高鳴る胸を押さえつけ、姫はじっとローの走る姿を見つめる。
このドキドキが緊張からくるものなのか、…ローを見ているからなのか、わからなかった。

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