きみの背中を見つめる
「姫様頑張ってー!」
「きゃー!姫様ー!」
「応援ありがとう、みんな」
『きゃあああっ』
黄色い声がテニスコートに響く中、姫様、と呼ばれる女の子…姫は手を振ってコートから出てくる。
それを見計らって黄色い声をあげていた女の子達が一斉に近寄り、タオルやお菓子、スポーツドリンクを次々に渡していった。
姫はそんな彼女達に嫌な顔一つせず、寧ろ嬉しそうに笑って受け取っていく。
一通り彼女達から何か受け取ると着替えるために彼女専用の部屋へと入っていった。
―――大空学園。
そこは、個人の能力のみが力となる特殊な学校。
この学校は幼等部から大学までエスカレーターでいける超マンモス校。
だが、この学校は親の経済力が全く及ばず…生徒本人の学力のみによって“ランク”がつけられる。
一番下のクラス…つまり成績がよくないクラスを“オンブラ”
その上のクラス…つまり成績は中ぐらいのクラスを“ルナ”
そしてその上のクラス…つまり成績優秀者と呼ばれるクラスを“ソーレ”
主にこの3つに分かれており、ピラミッド式になっているのでソーレクラスは非常に人数が少ない。
しかし…その中で一人、特殊な人間がいた。
“ルチア”
それがその学部にいる全てに秀でた人間に与えられる称号。
学力は勿論、スポーツ、芸術、品行…全てに於いてトップである者、それがルチアだった。
完璧な人間などいない。
よってルチアは今まで幻の階級とされてきた。…姫という生徒が現れるまで。
「姫!お疲れ!」
「あ、ナミ。お疲れ様」
沢山の本を手に持ったナミと出会い、手伝う、と言いながら姫はナミの持っていた本を半分持つ。
ありがと、とナミが笑いかけてくれたので姫もふわり、と笑い返した。
ナミは姫に気軽に話し掛けられる数少ない“ソーレ”の人間。
この学校は学力で厳格にわけられているため、クラスで全く過ごす校舎も違う。
自分より高いクラスの校舎には許可がないと入れない仕組みになっており、唯一隔たりなく会えるのは学校行事と部活のときだけ。
部活はクラス関係なく、やはり実力社会でお互いに切磋琢磨し合う。
姫もテニス部に入り、そこでクラスの上下関係なく部活に励んでいた。
「またファンクラブの子達もお菓子もらってたでしょ?」
「うん。ナミも食べる?美味しいよ」
「はぁ…あのね、ファンのふりしてあんたを妬んだ人間が毒盛ったりしたらどうするのよ」
「…?みんなそんなことするように見えなかったんだけど…」
「…あーもういいわよ」
それが姫だもんね、とナミは若干諦めの入った苦笑をもらし、少しだけ嬉しそうに笑った。
人を疑わないのは姫のいいところであり、悪いところね、と。
姫は両親に厳しく、そして甘く育てられてきた。
良家の子女として恥ずかしくないように、と想像も絶する厳しい教育を受けながら、可愛い一人娘に汚い大人の世界を知ってほしくない、と所謂箱入り娘に育てられた。
そのせい、というべきかおかげ、というべきか姫は人を疑うことを知らず、誰でも優しく接することができる。
そんな彼女を妹のようにナミは可愛がり、彼女が好きだった。
「ねぇ、帰りにちょっとお茶していかない?おいしいお店見つけたの!」
「わぁ…いいね!行きたい!」
「なら決定ね!行きましょ」
ナミの本をソーレの図書館に戻し、バッグも持って校舎を出る。
学校ではルチアと呼ばれる誰もが憧れを抱く存在だが、一歩外に出れば普通の女の子。
甘いものや可愛いものに目がなく、よくナミや時々ロビンも一緒に寄り道していくのだ。
この前行ったケーキ屋さんはどうだった、だの紅茶が濃かっただの沢山おしゃべりしていると、遠くから聞こえる女の子達の笑い声とその目に入る光景にナミは姫に聞こえないように舌打ちする。
「あれって…トラファルガー、くん?」
「…えぇ、そうね」
「見たことない女の子達…他校の子かな?トラファルガーくんって顔広いんだね」
「そうね…行きましょ、早く行かないと帰りが遅くなるから」
これ以上見せたくない、とばかりにナミは無理矢理姫の腕を引っ張って内心悪態をつく。
みるからに今から女遊びしますって学校近くでうろつくな、と。
いうまでもなく姫はあの女の子達をただの“お友達”としか思っていないからいいものの…ローも数少ないソーレの人間なので姫と同じクラスは姫に悪影響だと姉代わりであるナミはいつも思っていた。
先ほどの光景通り、トラファルガー・ローは成績優秀にも拘らずその女遊びはとても激しい。
一定の女の子なんて一度も作ったことはなく、噂ではソーレ以外の女の子にも手を出しているらしい。
勿論、そんな噂は姫の耳に入らないようにナミやロビン、同じソーレのルフィや…何故かローの親友ともいえるペンギンやルナのキャスケット、ベポも情報操作をしている。
そんなことも知らない姫はあまり先ほどのことは気にしていないようで、早くケーキ食べたい、と顔を綻ばせる。
そんな姫にナミは安堵しながらそうね、と頷いた。
―――そんな姫の後ろ姿をローが見つめているとも知らず。
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