本当は優しい人
ようやく生徒会室から出られて、書類が纏まったことに姫は小さく息を吐く。
今度ある体育祭はこの学園最大のイベントであり、他のクラスとの交流が深められる数少ない機会なのだ。
失敗はもちろん許されないし、念入りに慎重に行わなければならなかった。
今回は体育祭当日の生徒会役員や体育祭実行員、更に教師の行動把握を行わなければならず、何百人という人間の行動を考えるのは少々骨が折れたようだった。
姫はもうすでに閉校時間に近いので携帯を開けばナミからのメールが入っていることに気づく。
どうやらロビンの本探しを手伝うようで先に帰る、というものだった。
何度もごめん、と男に気をつけろ、を繰り返されて姫は心配性なんだから、と苦笑しつつもはい、というメールを送り続ける。
ようやくナミの気が収まったのかまた明日ね!でメールは終わり、姫も教室に置いてあった自分の鞄を持って帰ろうとした。
「…今帰りか?」
「あっ…トラファルガーくん」
どうやら図書館帰りのようでローの手には2,3冊の本がもたれていた。
姫はローの問いにうん、と頷き、トラファルガーくんも帰るの?と聞き返せばローはあぁ、と短く返す。
ローは鞄を持ち出してその本を中に入れると姫に軽く視線を向けた。
「一人で帰るのか?」
「うん…ナミ達先に帰ったから」
「…送る」
「えっ!?い、いいよっ!もう夜遅いし、」
「なら尚更送る。…女の夜道は危ねぇだろ」
「…えっと……」
「…黙って送られとけ」
「…、うん。じゃあ…一緒に帰ろう」
迷うような仕草をしたがローの言い草に姫は不器用なだけで本当は優しい人なんだ、とふわりと微笑んで了承するとローは無言で背を向けて歩き出す。
姫もその後ろからついていき、ちょこちょことその隣を歩いた。
そんな姫の様子をローは横目でちらり、と見て少しだけ歩調を緩める。…姫が歩くくらいの速度に。
そのことに姫が気づかないはずなく、姫はやっぱり不器用な人だ、と心の中で感謝する。
…正直、姫は少し前までローが苦手だった。
無口で無愛想で、しゃべったとしてもペンギンとだけだったので今までちゃんと話したこともなかったし、
ナミが“アイツに近づかない方がいい!”と言ってあまり近寄らせてもくれなかったのだ。
…ナミは男慣れしていない姫がローに遊ばれるのではないかと心配していたからだった。
無口で怖い人、という意識が強かったがその認識は改めようと姫は思った。
本当は優しくて、ただ人より不器用なだけなのだ、と。
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