最低男最終手段に出る(プロポーズ)(え?飛躍しすぎ?)
リクオさまに飽きられて、少しだけ胸が痛んだが、これでいいのだと言い聞かせていると夜中だというのになんだか玄関先が騒がしい。
いや、妖怪の活動時間を考えると妥当な時間なのだろうが。
来客だろうか、と内心首を傾げながらも奴良組に居候している身なので、関係ないだろうとすぐに興味は薄れる。
しかし、その騒々しさは次第に玄関先から屋敷内に移動しているようで、段々聞こえてくる声も大きくなっていった。
「ま、待て、落ち着くんだ!」
「待てないわ!!リクオさまはどこなの!?」
「だから若は今見回り中で、」
「嘘よっ!新しい女ができたんでしょう!?だから私と別れようなんて…っやっぱり納得できないもの!!リクオさまを出してッ!」
「見回り中で出かけてる!だから落ち着いて客間に、」
「リクオさまっ!リクオさま、どこなの!?」
…。…どうやら会話から察するにリクオさまの元愛人さんのようだ。
しかも、別れ話をされて、それが納得できないらしい。あのリクオさまが女性と別れるなんて…よっぽどの理由があるのだろう。
大変な人を好きになったものだ、とのんきに考えていると鴉天狗さまが泣きながら「姫、どうにかしてくれー!」と突然入ってくる。
「えええ!何故私が…!」
「何故ってお前と若が付き合っているからあの女性と別れたのだろう?」
「付きっ…!?いやいやいや鴉天狗さま、大きな誤解です、私は、」
「あなたがリクオさまの恋人なの!?」
「え゛…」
いつの間に入ってきていたのだろう。元愛人さんは般若のような形相で私を睨んでいる。
周りで止めていた妖怪たちもその恐ろしさにみんな腰が引けていて、止める気配がない。
ずんずんと部屋の中に入って私の目の前まで来たかと思うといきなり女性は私に向かって手を振りかざす。
――バッチーンッ!!
誰もが息を飲んだ。…私も、女性も。
そこには、私を庇って、殴られたリクオさまがいたから。
「こいつを傷つけねェでくれ。オレが勝手に惚れてるだけなんだ」
「あっ…リクオさまっ…私…っ!」
「あんたを傷つけて悪いと思っている。――こいつは本気で惚れた女なんだ。あんたが気がすまねぇっていうんだったら気が済むまでオレを殴ってくれ」
「…っ…!!」
真剣なまなざしで射抜かれた彼女は目に涙を浮かべて、何も言わずに背を向けて去っていく。
きっとリクオさまの本気の気持ちを見せられて、これ以上何も言えなかったのだろう。
でも、私はそれどころじゃなかった。――リクオさまが言った言葉が、本当なら…、
「…姫、」
「っ…は、い」
「悪かった。巻き込んじまって…」
「いえ…あの、手当いたしましょう。お顔が、腫れていますから」
「あぁ、悪いな」
救急セットを用意して、座ってもらったリクオ様の傍に座り込む。
騒動が収まったからか、みんなもどんどん私の部屋から出て行った。
二人っきり、というのがとても緊張を呼んだが、今更だ。
緊張で震える手を抑えながら少しだけ切れている口の端を消毒液で軽く消毒をする。
少し時間が経ったからか、頬の腫れがさらに増していて痛々しい。
腫れが引くように湿布を頬に当てるとかぶさるようにリクオさまの手が私の手に添えられる。
「さっき、言ったこと…本気だ」
「え…」
「オレはあんたに…姫に本気で惚れてる。いくら時間がかかってもいい。――お前の心がほしい」
真っ直ぐに見つめられて、心臓が痛いくらいに高鳴る。
何度も言われた言葉だった。惚れてる、夫婦になろう。
でも、今までで一番真剣で――とても、綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。初めて会った夜の日のように……
何も言わない私に困っているのだろう、と思ったリクオさまはふわりと優しく笑いかける。
「まだ返事はいらねぇよ。少しでもいいからオレを男として見てくれれば…」
「…リクオさま」
「ん?」
「――リクオさまと同じ気持ちだと言ったら、驚かれますか?」
「え……」
きょとり、と目を丸くしたリクオ様の表情が少しだけ可愛くて思わずくすり、と笑う。
(その笑顔にリクオが再び恋に落ちていることなど、知らずに)
最初は最低な人だと思った。自分のファーストキスは勝手に奪うし、女たらしだし。
…でも。危険な時は身を挺して守ってくれる。実は優しくて、かっこよくって…知れば知るほど、リクオさまのことを考えることが増えていた。
――ううん、きっと。最初に会ってあの綺麗な瞳をみた瞬間から…私はこの人に落ちていたのだろう。
怪我した方とは逆の頬に軽くキスをして素早く立ち上がる。
「好きです、リクオさま。…お大事に!」
「……っ」
障子に手をかけて、恥ずかしさから急いで部屋を出ようとした。
このままリクオさまと一緒にいたら顔が真っ赤なのがばれてしまう。
ていうか私からキスするなんて…!大胆になったものだ。
内心いっぱいいっぱいで足を進めようとした瞬間、たくましい腕が私の体を包み込む。
「言い逃げかい?」
「……そ、そんなつもりは…」
後ろから抱きしめられていたが、向い合せになるように優しく腕を引かれる。
そっとリクオ様を見上げれば、…こちらが恥ずかしくなるくらい、優しい瞳で私を見つめていた。
「愛してる、姫。俺と夫婦になってくれねぇか?」
「…ふつう、恋人からでは?」
「いいだろ?一生俺の傍にいるんだから」
「――それもそうですね」
小さく笑って、私も愛してます、と囁くとリクオ様は目を細めてそっと私の頬に手を添える。
ゆっくり近づいてくる顔に、私もそっと目を伏せて、…ありったけの愛をこめてその唇を受け止めた。
それを見ていたのは、初めて会った日の夜のように、桜と、月だけ。
シーソーゲーム
恋はいつだってシーソーゲーム。
惚れた(落ちた)方が負け。
でも、どっちも落ちれば…それはなんて素敵なことなんだろう。
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