不器用な恋



「…あー!!!」



突然の大声にえさを食べていた雀たちがちゅんちゅんと鳴きながら飛んでいく。
ぐしゃぐしゃと自分の髪をかき混ぜながらごろごろと地面に転げまわった。

…それでも、気分は晴れない。

こんなにも悩んでいるのは、姫のこと。
姫は同じクラスの女の子であり、…つい最近、彼女になった。
ずっと好きで、告白する勇気なんてなかったのだが、まさかの姫から告白されて付き合うことになったのだ。
一緒にいるだけですごく心が満たされていて、幸せなのだが……



「そろそろ、キスとか、したいよね…」



そっと呟いた言葉に再び「あー!」と恥ずかしさで唸り始める。
そうなのだ。付き合い始めてもう時間は経つ。手も繋いだし、抱きしめたりしたし、そろそろそれ以上に進んでいいのではないかと思う。
でも…できない。キスしようとすれば、心臓がバクバクとうるさいくらいに鳴りはじめて、手が震えるほど緊張してしまうのだ。



「つまり、勇気がねぇんだろ?」

「…うるさいな。君は黙っててよ」



からかうような声音が自分の中で響き渡る。…夜の僕は大人だから緊張とかないんだろうけど、昼の僕はまだ高校生だ。
それに、大切に…大切にしたいと思えば思うほど、手を出せなくなる。
それが勇気がなくて、意気地がないというのだろうか。
…本当はキスしてそれ以上に進みたいとまで考える自分もいるのに。ある意味矛盾している。



「押し倒しちまえばいいだけだろ?」

「だめでしょ、それ」

「それくらいしてみろってんだ」

「あのねぇ、僕は…!」

「こんにちはー…あれ?リクオくん、どうしたの?」

「えええ!!姫!?な、なんでここに!?」

「え?さっきメールしたよ?課題、教えてって」

「あ、あぁ、そうだった…!」

「ふふ、忘れてたの?」



くすくす笑う姫に「ごめん」と謝りながら机を準備する。
姫は机に課題を取り出すと、わからないところに印をつけていった。
そんな姫の横顔を見ながら考えるのはやっぱりキスのことで。
姫はこんなに真剣に勉強しているのに、とも思いつつ、やっぱり考えてしまう。



「…ってことだよね?」

「………」

「…?リクオくん?」

「…、…え!?あ、ご、ごめん!聞いてなかった!」

「もしかして体調悪い?」



ずいっと顔が近づけられて、今にも口から心臓が飛び出しそうだった。

ち、近い近い近い!!
あと少しで姫の唇が、

…もし、少しでも顔を近づけたら、くっついてしまいそう―**

吸い寄せられるように僕の顔は姫に近づき……いつの間にか、姫にキスしていた。



「…え?」

「え?」

「リクオくん、今、」

「……っっ!!」



意識が一気に戻ってきて、思わずズサササッ!と勢いよく姫から離れる。

い、いいい今僕姫にキ、キキキキスした…っ!?
何してんだよ僕!!一体何を考えてキスなんて…っいや、考えていたことなんて一つだけなんだけど!!

真っ赤になる顔を隠そうと手で口元を隠したが、姫はそんな僕をパチパチと瞬きさせて見つめる。



「…っふふ、どうしてキスしたリクオくんが動揺してるの」

「あ、いや、だって、…っていうか姫が落ち着きすぎでしょ!」

「いきなりだったし…動揺してるリクオくん見たら冷静になったっていうか…」

「(オレかっこ悪…)」

「(本当だな)」

「(うるさいよ、夜の僕)」



がっくりとうなだれる僕に姫は優しく笑うと立ち上がって僕の隣に座り込む。
首を傾げる僕に姫はゆっくりと目をつぶった。

これって…キスしてほしい、ってこと、なの、か…?

姫の肩に手をかけて、今度こそゆっくりと姫に口づける。
幸せが胸いっぱいに広がって、ドキドキや緊張よりも幸福感の方が大きかった。



「…なんか、幸せ、だね…」

「うん。同じこと、思ってた」



二人で微笑みあいながらもう一度だけキスをする。

夜の僕が「よかったな」と笑った気がした。




不器用な恋

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