少女出会う
「奴良リクオさま…一体どんな方なんだろう…」
時は平成、世の中は明かりという明かりが灯り、妖怪も住みにくくなっているご時世。
もちろん、私たちの一族も例外ではないが、少しは名の通った妖怪一族。
滅ぶことなく生きることができていた。
しかし、長である祖母もご高齢…次の長候補である私、姫が各地域にいる妖怪の長に挨拶に行くように言われたのだ。
今日ご挨拶に行くのは、奴良組。関東で最大の勢力であり、百鬼夜行を率いている大所帯だ。
その奴良組を率いている大将が私と同じ年くらいの男の子らしい。
一体どんな人なのか…すごく興味をひかれる。
土産のおまんじゅうを手にカラン、コロン、と下駄を鳴らし、奴良組の屋敷前に立つ。
賑やかな声が中から聞こえてきて、とてもいい雰囲気を感じる。
「ごめんください。どなたかいらっしゃいますか?」
「はいはーい!どちらさまで…」
「こんにちは。今日、ご挨拶させて頂くことになっておりました、姫と申します」
「ああっ!!あなたさまが…ってっきり、当主様が来られるのかと…!」
お待ちしておりました、と柔らかな笑みで案内してくださった方はおそらく首無さんだろう。
首無さんに連れられて屋敷の中に入っていくととても広いことがわかる。そして、たくさんの妖怪がいることも。
「あれが木花咲耶姫神(コノハナ サクヤヒメ)の孫娘か」「噂に違わず別嬪さんじゃ〜」とひそひそとした声が聞こえてくる。
確かに祖母はとてもすごい人なのだけれど…今の私にはまだ何の力もない。
この人たちに「祖母の孫娘」としてではなく、「姫」として見てもらえるようにがんばらなければ。
ぐっといっそうの決心を固めていれば、大きな広間に通される。
少々お待ちください、と言われてぽつりと一人、部屋に残されてしまう。
…他の人の家だからだろうか、なんだか、落ち着かない。
開いている障子の外を見ると見事な桜が庭に咲き誇っていた。
「すごい…綺麗……」
少しくらいなら席を外しても大丈夫だろうか?
そんな軽い気持ちで私は足が汚れることも忘れて見事な桜の傍に寄る。
綺麗…こんなに綺麗な桜、見たことがない……
きっと、持ち主がとても大切にしているんだろう。
そっとその木の幹を撫でると「気に入ったかい?」と後ろから声をかけられる。
振り向くと、銀色の長い髪を揺らし、煙管を燻らせている男の人がいた。
男の人の問いに「ええ」と頷いて再び桜を見上げて愛でる。
そんな私がおかしかったのか、くくっという笑い声が聞こえたかと思うと「そんなに気に入ったかい?」と耳元で囁かれる。
…っ…いつの間に……後ろに立たれたことに、全く気付かなかった。
そっとうしろを再び振り向くと彼は私の肩を優しく抱き、「やっぱりな」と呟く。
「お前の方が綺麗だよ」
「…っ!?」
「お前、名は?」
輝く金色の瞳が満月に反射して、吸い込まれそう。
とても…とても、綺麗だと、思った。
その不思議な力に引き寄せられるかのように、口を開いていた。
「姫、です…」
「姫か。いい名だ。また会おうな」
ちゅ、と優しく唇を奪われて、彼の姿はなくなる。
あるのは、やはり綺麗に咲き誇る、桜、だけ。
――あれは、夢だったのだろうか。
でも、唇に柔らかい感触が確かに残っている。
彼は、一体…誰だったのだろう……
「…あれ、ていうか、私、初めてキスした…?」
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