少女出会う2
ファーストキス奪われた。しかも見知らぬ男に。しかもどさくさに紛れて。
でも嫌じゃなかった…ってこの感覚はおかしい気がする。嫌でしょう、普通。
ぐるぐると頭をまわしてぼぉっとしていると後ろから「あ!姫さまー」と声をかけられる。
ゆっくり振り向くと先ほど案内してくれた首無さんがいた。
どうかしたんですか、と聞かれて、慌ててなんでもない、と答えると足をはたいてお屋敷の中に再び入る。
「すいません。どうやら若はお散歩に行っているみたいで…いつ帰ってくるかわからないんです。どうにも自由な人で…」
「…そうですか。ぬらりひょんは自由な妖怪だと聞いています。仕方ないことですね」
「今夜は泊まっていったらどうじゃ?姫」
「…!ぬらりひょんさま…!ご無沙汰しております!」
「ははっ!あんなに小さかった娘が大きくなりおったわい!」
ひょこりと顔を出したのは何年も前に私たちの屋敷に来てくださったぬらりひょん様だった。
嬉しくてその手をとるとぬらりひょんさまも懐かしそうに目を細める。
「…あとワシが100年若かったら口説いとったのになぁ…」
「ふふ、お祖母さまもその昔口説かれたと聞きましたけど?」
「こりゃかなわんわい!」
カッカッカッ、と快活に笑ったぬらりひょんさまにおかしくって小さく笑いかける。
首無さんに部屋に案内してやれ、と命令されて、私は軽く頭を下げると再び首無さんについていく。
こちらです、と案内されたのは手ごろに広いお部屋。
ありがとうございます、と首無さんに頭を下げると「御用がありましたら近くのものに言ってください」と柔和な笑みを浮かべた。
いい人…リクオさまに今夜会えなかったことは残念だけど、もし明日の朝お帰りになっていたらその時にご挨拶をしよう。
そう決めて、使っていい、と言われていた単衣に着替え、その上からストールを羽織る。
月が綺麗だからそっと襖をあけて、空をぼんやり見上げた。
――それを一体どれだけの時間していただろう。
ふるり、と体が寒さを訴えたことで、ようやく自分が長く夜風に当たりすぎたことを知る。
あぁ、体を冷やしてしまった、と軽く体をさすって、立ち上がったが、寝る前にお手洗いに行こうと歩き出した。
…が、困ったことにいくら歩いても誰とも会わないし、どこにもつかない。
このお屋敷は本当に広い……一体どうしたら、
「…さ…」
「………よ」
あら…?どこからか、声が聞こえてくる…?
耳のいい私は聞こえてくる声の方にゆっくり近づいていく。
そしてだんだんクリアに聞こえてくる声。どうやら襖が開いているようだ。
「ね、リクオさま、こちらを向いて…?」
「ん」
「ふ…っあ…」
リクオさま、って…若君のリクオさま?
そして…一緒にいるのは、許嫁の方かな…?
そっとその中の様子が見える角度まで歩を進めると、思わず顔を真っ赤にしてすぐさま視線を外した。
な、ななな何あれ…ずっとキスしてるし…っしかも、周りには3人も女の人がいるし…!
リクオさまを取り合っているのか女の人たちが代わる代わるリクオさまにキスしてる。
ど、どれが本命の方なのか……いやいや本命の人がいたとしても堂々と浮気だなんて、ダメでしょう…!
もう一度だけちらり、とみるとそこから見えた銀色の長髪に、金色の目……
「え…」
うそ、でしょ…あの…私の、ファーストキスを、奪った、彼……!
そのショックが大きすぎて長く見つめすぎたのか一瞬だけ彼の視線が私に向かった気がして慌てて隠れるとすぐさま来た道を辿っていく。
どくどくと、心臓が嫌な音を立てる。
小さく息を吐いた瞬間、
「覗き見とはいい趣味とはいえねぇな」
「…っ!あなた、奴良、リクオさま…?」
「…ん?なんだ、もう俺の正体を知っちまったのか」
それは残念、と肩をすくめたリクオさま。
…やはり先ほど桜の木の下であった男で間違いない。
まさか、すでに会いたかったリクオさまに会っていたとは……
「…どうしたんだい?もしかして、もう一度、オレにキスしてほしいのか?」
いつの間に私と距離をつめたのだろう。
リクオ様は再び私の腰に手をあててぐっと体を近づける。
ちゃっかり、手は私の頬をとらえていた。
そして、だんだんリクオ様の顔が近づいてきて……
――バッチーンッ!!!!
「触るな汚らわしいこの女たらしの最低男!!!」
「…っ!?」
思いっきりひっぱたいてやった。
それはもう、思いっきり。彼の頬に赤い紅葉の形ができるくらい。
その勢いに驚いたのか、私が発した罵詈雑言に驚いたのか(もしかしたら両方かも)彼の手が離れた瞬間、一気に間合いをとり、走って逃げる。
あの時は嫌だとは思わなかったけど、先ほどの光景を思い出してぶわりと不快な何かがこみ上げてきた。
最っっっ悪…!!!まさか、あのファーストキス男が、リクオさまだったなんて…!!
甘ーい言葉を同じように誰にでも言ってるんじゃない!!
あれが奴良組の跡継ぎ!?信じられない!!ただの最低男じゃない!!
次からは絶対に隙なんて見せるものか…!!
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