少女巻き込まれる(ちょっと見直す)
何故かわからないが(いやというか流れに流されたというべきか)ご挨拶に来てからずっと奴良組にお世話になっている。
今はお醤油が切れたという若菜さんのためにお醤油を買いに一人で街に来ている。
東京はとてもキラキラした町なのだが、光がある分、闇は深い。
ちらちらと私のことを狙う妖怪たちの視線に小さくため息をついた。
全く…故郷の里なら絶対にこんなことはない。
何故なら私の祖母を知らない妖怪はいないからだ。
祖母に逆らえばその妖怪は消される。それくらい祖母は力の強い妖怪…いや、神様なのだ。
しかし、ここは祖母の力の及ばぬ土地。
つまりは自分の力で自分の身を守らないといけない。
まだまだ半人前だが、そこら辺の小物妖怪には負けないとは思う、が……
「御嬢ーさん、こんな夜に一人?」
「俺たちと遊ばない?」
人気がなくなった途端に闇の中から声をかけられたが、無視。
こんな妖怪たちに付き合っていられるほど暇ではない。
早く帰らないと若菜さんがお醤油がなくて困ってしまうのだから。
でも、妖怪たちは私を絶好のエサだと思ったのか、しつこく誘い込み、畏れを発動させる。
しゅるり、と何かが私の足に絡みつき、私の体は動かなくなる。
…っ何の妖怪なの…私が動けなくなるなんて……
神気を発して邪気を払おうと目に力を籠めようとした瞬間、しゅるり、と目隠しまでされてしまう。
しまった…!私の力は目から始まる。その目を封じられてしまっては、力を使えない…!
「ケーケケ!こいつ、何故かうまそうな匂いがするぞ!」
「あぁ!ちょっとだけ神の匂いがする!食べたらすげぇ力になりそうだ!」
どうしよう…このままでは、こいつらに食べられてしまう……
初めて自分に命の危険を感じて、小さく体が震える。
今までお祖母さまに守られてきた命…ここで、死ぬわけには…っ
でも、どうやったらこいつらに勝てるの…!
わからない…わからない…っ!!――誰か、助けて…っ!!!
―――ザンッ!!
「おい、俺のシマで女に手ぇ出してんじゃねぇぞ」
しゅるり、と拘束されていた何かから一気に解放されて、私の体は重力に従ってゆっくり倒れ込む。
しかし、地面にぶつかる前に誰かが私の体を抱きしめて支えてくれた。
この腕…確か、どこかで、
「大丈夫かい?」
「…あ…リクオ、さま…」
優しい声音でそう問いかけたのは、奴良組の若君、リクオ様。
知った人であったことに少しだけ安心して、その身を任せる。
温かい……
私の頭を優しく撫でて、「怖かったな」と慰めてくれる。
その優しさが心の中にしみ込んで、縋るようにきゅっと彼の体を抱きしめた。
……が、途端に香ってくるのはとても甘い香り。まるで、女性ものの香水のような……
「…。リクオさま」
「ん?」
「今宵、どちらに行かれていたのですか?」
「…化け猫やっつー飲み屋だが…」
「ではたいそう楽しかったでしょうね。お姉さま方に囲まれて」
「え、い、いや、これは、」
とんっと軽くリクオさまの体を押して私との距離をあける。
…感心して損した…!!やっぱり女遊びしてたんじゃない!!
またあの人の優しさに騙されるところだった!!
危ない危ない!ちょっとドキドキしてしまったじゃない!いや、断じてしていないわ!
お醤油の入った袋を拾い上げて、再び帰るためにリクオ様に背を向ける。
何か言いたそうにしているリクオさまを無視して歩を進めていたが、ぴたり、と足を止めた。
「…リクオさま」
「あー…いや、姫、その、」
「ありがとうございます。…助けてくれて、嬉しかった」
「…!」
「先に帰りますっ」
何だか少しだけ恥ずかしくなって、最後は言い逃げのようだったけど。
確かにあの人は女たらしで、女にだらしのない人だけど!
…でも、助けてもらったことには間違いない。
だから、ちゃんとお礼は言わないと…人として、そう、人として、大切なことだから!ただそれだけだ、うん。
走り去った後、リクオさまが私の後姿をずっと見つめていたなんて知らなかったんだ。
「…やっべぇな……たまらねぇ……」
これだから、姫に惹かれる。
「…やっぱ、惚れさせるしかねぇな」
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