アイタイ



朝、起きていつものように子鬼たちの支度の仕方に文句をいいながらいつものように学校へ向かおうとした。
その時にはたり、と気づく。…姫がいないことに。
いつもなら僕が学校へ行こうとすると台所からお弁当を持って「若君、行きましょう」と笑顔で言ってくれる。
いつもと同じ時間なはずなのに、姫はいなかった。
…もしかして日直で早く行っているのかな。
昨日、喧嘩もしてしまったし、姫も気まずかったのかもしれない。
そう思って「いってきます!」と大きな声で言うと勢いよく飛び出す。


―――それから、放課後。
僕は小さな違和感をもちながら家に帰ることになる。

姫は学校に来ていなかった。
六年生のお兄さんたちから「姫さんは休み?」と何度も聞かれたから。

姫は家にいたのだろうか。…でも、朝はいなかったことに間違いはないはず。
一体どういうことだろう、と小さな不安と疑問が襲い掛かる中、家に帰りつき、ただいまーと声をかけた。
お帰りなさい、若、とみんなに出迎えられながら家の中を見渡すが姫の姿はない。
河童や黒や青、首無たちに姫は見てないか聞いたが誰も今日は見ていないらしい。



「おぉ、リクオ。帰ったか」

「ただいま、じいちゃん。…あ、ねぇじいちゃん。姫知らない?今朝から見当たらないんだ」

「……おらん」

「え?」

「姫はおらん。…昨夜、姿を消した」

「……っ、うそだ!!」



本当だ、リクオ、と諭すように冷静に言うじいちゃんにさらに怒りが増していく。

嘘だ嘘だ嘘だ!!姫が僕のそばを離れるなんてありえない!!
昨日まで僕のそばにいてくれたんだ!
あの姫が僕にいないなんて……っ!

どんどん体の中の血が熱くなっていくのがわかる。
夜が…夜の僕が、代われと叫ぶ。お前に代わって、探しに行く、と。
その声はどんどん大きくなって、僕の意識は引きずられていく。




「……探しに行く」

「リクオ、」

「誰が何と言おうと…姫は俺の傍にいさせる」



たとえ、姫が望まなくても。



じじいは俺をとめることはなかった。
夜の浮世絵町を当てもなく走り回り、あのたおやかな後ろ姿を探す。

毎日、毎日……


それでも、姫を見つけることは、できなかった。



―――どこにいるんだよ…っ…逢いたいんだ。姫……

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