ヌクモリ
木の陰から若君を見つめ、少しだけ胸が熱くなったがきゅっと手を握りしめてその熱を逃がそうと心を落ち着かせる。
へびにょろに乗って散歩をし、私に似た背格好の女の人がいると目で追っていた。
…そんな姿を見て、何も思わないわけじゃない。
私の選択は間違っていたのでしょうか…あの時は若君の立場を守るために若君の前から姿を消した。
しかし、そのせいで若君は組を置いて私を探している。
―――私のことを忘れて、若頭として奴良組を率いてほしかったのに。
きゅっと、再び手を握りしめて…迷いを断ち切るべく、私の足は走り出す。
このままではいけない。…私の望みは、若君と、恩ある奴良組の幸せなのだから。
走って、走って…息が切れるのも厭わず、走り…大きくなった背中まで、走る。
「――若君、」
「……っ、!!」
息が切れているからか、掠れた声で名を呼ぶ。
その小さな音であったにもかかわらず、若君は勢いよく振り向き、私の顔を見た途端驚きで体を固まらせた。
―――あぁ、大きくなられた。
真っ正面から見る若君はあの頃の幼さは成りをひそめ、立派な“妖怪”になっていた。
その事実にとくり、と心臓が音をたてると同時に場に合わず感慨深くもなる。
若君、ともう一度ゆっくりと呼び掛ければ、くしゃりと若君の表情が歪み、次の瞬間――強く抱き締められていた。
「…っ…やっと…やっと、見つけた」
「若君、」
「何も言うな。…何も、聞かねえから…」
抱き締められる力が、強くなる。
どこにも、もう、行かせないかのように…
―――違う。
この温もりを得るために、姿を表したわけじゃない。
ダメ、と自分で自分を強く戒めて、能力を使い、するりと若君の腕から抜け出す。
「やめろ!!!」
「…っ、若君…」
「離さねぇ…っ!!絶対に…!」
やっと、…やっと、見つけたんだ。もう、絶対に離さねぇ。
腕を抜け出した私の腕を再び引っ張り、先程よりも強く抱き締められる。痛いくらい、に。
「…頼むから…側にいてくれ…」
泣きそうな声。縋るような腕。…それらを振り払えるほど、私は非情になれなかった。
…あぁ、私の覚悟のなんて脆いこと。そう自分を嘲笑い、そっと若君の背中に手を回す。
「側にいても、いいのですか…?」
「あぁ、…お前以外、いらねぇよ」
「…若君、」
「リクオ、だろ?」
呼べよ、姫。
「…リクオさま」
呼ぶと同時に再び抱き締められる体。
…心のどこかで受け入れられることを望んでいたことに気づき、自分に失望しながら、…今だけは、とその温もりに身を任せた。
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