イチバン
まだ夜明け前…私は自然と目を覚まし、手早く準備すると既に煙の立つ台所に向かう。
そっと台所を覗くと朝御飯の準備をしている若菜さまの姿があった。
話しかけてよいものか…ひさしぶりにお会いするのに、どんな顔をすればいいのだろう。
そう躊躇っていると若菜さまは後ろに置いてあるお味噌を取ろうとして振り返り、…私と目が合う。
「…!あら、もう起きたの姫ちゃん!もっとゆっくり寝ててもよかったのに」
「…あ、あの、若菜さま…」
「どうしたの?手伝ってくれるために来てくれたんでしょ?さ、入って!」
「は、はいっ…!」
また姫ちゃんとお料理できて嬉しいわ、と向日葵のように笑う若菜さまに少しだけ目頭が熱くなる。
…どうしてこんなにも温かいのだろう……
こんな私を当然のように受け入れてくれる……
でも、泣いたらきっと若菜さまは私を心配する。…だから、ぐっとこらえて、ふわりと笑いかける。
「お手伝い致します、若菜さま」
「ありがとう、姫ちゃん。まずはそのお野菜、切ってもらえる?」
はい、と頷いて朝御飯の支度にかかる。
しばらくするとつららさんや毛倡妓さんも入ってきて、どんどん賑やかになっていく。
お膳を運びます、と伝えて、お膳をもち、大広間へと持っていく。
おはようございます、と挨拶しながら運んでいると「おはよう、姫」と話しかけられ、小さく笑みを浮かべる。
「首無さん、おはようございます」
「もう大丈夫なの?」
「ええ、すっかり。ご心配をおかけいたしました」
「元気になってよかったよ」
安心したように微笑む首無さんに私も嬉しくてそっと微笑み返す。
では、まだ準備がありますので、と一礼してお膳を広間に運ぶとまた台所に向かおうとした、けど。
ぐいっと腕を引っ張られて、そのままその部屋の中に引き摺りこまれる。
何っ…と動揺したが、抱き締められた香りからその力は抜けていく。
「…おはようございます、若君」
「好きなの、首無のこと」
「…?若君?」
優しく腕を引かれたかと思えば、逃げ道を塞ぐかのように両腕と壁で私を塞ぐ。
私を見つめる若君の目はとても真剣で、目を反らせない。
…昼の若君なのに、まるで夜の若君を見ているかのよう……
「首無と随分仲良いよね」
「…そうでしょうか…」
「姫の一番は誰?」
ずいっと顔を寄せられ、息を吹きかけるくらい耳の近くで囁かれる。
びくり、と肩が震え、羞恥で赤くなるのがわかったが、どうすることもできない。
ねぇ、と催促するように耳元で囁き、かぷり、と耳を食む若君に熱い息が漏れた。
「…やっ…若っ…」
「ん…言わないの?」
「…でしたら、お止めにっ…あっ…」
「誰が、一番なの?」
「若君…若君です…」
「誰なの?」
「…リクオさまっ…もう、」
お止めください、と潤む目で若君を見上げた瞬間に息まで食べられたのではないかというくらいの口づけがふってくる。
…どれくらいそうされていたのか。わからなくなるくらい、キスされ、離されたときには足に力が入らなかった。
崩れ落ちそうな私の体を若君が抱き締めて支えてくれている。
「ね、その言葉忘れないでね」
「…っ、はい…」
「他の男が一番になったらいってね?…その男、消すから」
「……っ」
こればかりははいと言えなかった。…でも、若君は満足そうに笑って私をお姫さま抱っこすると大広間へと運んでくださる。
そして、もう一度私の髪にキスを落とすと先ほどまでの色気のある視線を閉じ込めて、爽やかに笑う。
「じゃあ、いってくるね、姫!」
「…はい…いってらっしゃいませ、若君…」
朝の光を浴びて、爽やかな笑顔で出ていった若君。
遠くから「若、待ってくださいー!」とつららさんの叫ぶ声が聞こえてくる。
どきどきと高鳴った心臓に、もう隠しきれていない気持ちがあった。
…でも、その気持ちはいけないものだ。
だって、…私たちは、姉弟なのだから……
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