イマダケハ、



「遅いですね、若」

「……はい…」



もう夜中の12時…日付も変わってしまったというのに、若君はまだ帰ってきていない。
学校に行かれて、…それから一度も帰られていない。
下僕のみなさんが探しているが、未だ若君は見つからない。
つららさんは学校で別れたらしいのだが、それ以降会っていないという。

大丈夫だろうか。…まさか、危険なことに首を突っ込んでいるんじゃないか。

そう心配しているのだが、お祖父様は「まぁリクオも男じゃ!大丈夫じゃろ」と笑い飛ばしていた。
つららさんが別れたのは夕方…恐らく、帰ってきていないのは、夜の若君なのだろう。
そう思うと確かに大丈夫かもしれないとは思うが…やはり、心配なものは心配だった。



「おーい!若がどこにいるのかわかったぞー!」

「…!本当ですか!」

「灯台もと暗し。化猫屋にいるらしい」

「そうですか…よかった」



化猫屋といえば妖怪のためのお食事処であり、娯楽施設でもある。
きっと気まぐれな彼のことだ。ふらりと行ったのだろう。
そう安心すると、教えてくれた納豆小僧さんはにやり、と笑った。



「どうやら若、女と一緒らしいよー」

「…………え、」

「あいつだよ、ほら!えっとー幼馴染みの…」

「カナ、さん…?」

「そうそう!そいつと一緒だって聞いたぜ」

「…そう、ですか…」



もやり、と心の中に黒い渦が渦巻く。…今までにない感情。
この感情が何かわからないほど子供ではない。…でも、この感情をもつ資格も、ない。

ぎゅっと無理やりその感情を押さえ込んで、縁側に座り込み…ひたすらに月を見上げた。


…若君…いえ、リクオさま。私はあなたのことが、好きです。
弟としてではなく…一人の男性として。

あなたが私に触れるたびに…私の体も心も蕩けてしまいそうになる。

でも、それは…ただのお戯れだったのですね。
あなたにはカナさんという心に決めた人がいた。

…でも、それでいい。
私たちは腹違いといえど、姉弟。許されぬ想いなのだから……


……ただ、今だけは。



「リクオさまっ…」



あなたを想うことを許してください。

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