コワイ



零れる涙を抑えることもできず、私は息を殺して自分の部屋で泣き崩れる。


『オレがカナちゃんと付き合ってもいいのかい?』


いいはずない。そうなってしまったら、この気持ちをどうしたらいいのだ。

カナさんと笑いあう若君。愛しそうにカナさんを見つめて――…
そんな想像をするだけでも胸が引き裂かれるように痛かった。

私は応援する、と言ったが、そんなの嘘だ。無理に決まっている。
二人の幸せそうな姿を間近で見るなど耐えられない。

付き合ってほしくなどない。
若君の心を欠片でもいいから――ほしい。
そんな欲が私の心を覆いかぶさっていく。

でも、…そんなこと、叶わない。

何故なら私は若君の腹違いといえど姉。

だから、私は、



「…この思いを、捨てないといけないのに…」


どうして、できないのだろう。



―――………

――…


あれから数日…私は若君を避けるように過ごしてきた。
まだ畏を完成させていない若君から気配を消して逃げることは簡単だった。
何かあったのかとつららさんが心配していたが、曖昧に笑って誤魔化すことしかできなかった。

そんな時……



「〜〜〜だそうだ」

「まさか、そんな」



こそこそと話していた小妖怪さんたちが私を見た途端、そそくさと逃げていく。
…何かしたのだろうか。もしかして、若君と喧嘩したことがみんなに伝わっているのだろうか。
他の妖怪も私を見た途端に何故かいつもよりぎこちなく接してくる。
原因を聞きたい、とは思うが「何でみんなぎこちないの」と聞くのもおかしい気もする。
結局疑問を抱えたまま夕食の準備をしているとつららさんが突然走って台所に入ってきた。



「あ、つららさん、…わ、」

「いいから来て!」



そのまま腕を引っ張っていかれて、別の部屋へと移動する。
そこには神妙な顔をした毛倡妓さんや首無さんたちがいた。

どうしたのかと不安になったが、とにかく落ち着いてみんなの前に座る。



「…今、噂になっていること、知ってる?」

「いえ…みなさんの態度が少しぎこちないとは思いますが…」



首をふる私にみんなが顔を見合わせる。
そして、しばらくみんなは黙っていたが、おもむろに首無さんが私に視線を向けた。



「本当のことを教えてくれ。姫は…二代目の娘なのか?」

「…っ!!」



がつん!と鈍器で殴られたようだった。…一気に、血の気が引いていくのがわかる。
「二代目の娘」という言葉…私がずっと隠していたことであり、おじい様しか知らないはずの事実。

一体どうしてそのことをみんなが知っているの……!

血の気を引かせて、言葉を失っている私の反応で事実であることが伝わったのか、みんなの雰囲気が重くなっていく。



「本当、なんだな…」

「…っ申し訳ありません。すぐに出ていきます」

「ちょ、待て!結論を焦るな。確かに今の状況で…まだ若が三代目を襲名していない状況で姫が血縁関係だったとわかるのはまずい。だが、姫がいなくなって解決する問題でもない」

「確かにそうね…」

「総大将は知ってて姫を連れてきたのか?」

「はい…」



総大将は一体何を考えて、いや、血縁があるからこそここに、とみなさんが話していることが遠くに聞こえる。
みなさんに私が二代目奴良鯉伴さまの娘だと知られた……

じゃあ、まさか、若君もこのことを…――

…どう、思われただろう。私が腹違いの姉だと知ったら……もし、軽蔑していたら、



「…っ…」



もう、傍にいられないのだろうか。

好きじゃなくていい。ううん、嫌われてもいい。…ただ、傍にいたいのに…

若君と会うことがとても、怖かった。

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