ジジツ


今日はやけにざわついている。

小妖怪たちは何やら噂話でもちきりで、名のある妖怪たちもそわそわとしている。
小さく聞こえてきたことといえば「総大将に確認してみねば」という言葉だけ。

ジジィに確認するっていうのは一体何をだろうか。
ジジィに確認するなんざ、よっぽどのことだろう。

いつもなら適当な妖怪を捕まえて聞き出すのだが、今日はそんな気分ではない。

ーーー姫……


「それが…若君のお心なら、私は応援します」


掴めそうで掴めない、そんな姫の心……
一体どうしたら、オレに姫の心をくれるのか……



「何ー!?姫が鯉伴様の子ども!?」

「しーっ!声がでかいぞ、お前!」

「…っ!?」



突然聞こえてきた声にオレは息が止まるかと思った。聞き間違いかとも、思った。
でも、はっきりと聞こえてしまったのだ。

姫が、親父の、子供…?
どういうことだ、親父の子供って、いったい……!!

混乱する頭で襖を勢いよく開け放ち、ゆらり、とその部屋に入っていく。
若、と誰かが息をのんだ音がし、オレは力なくそいつらを見上げた。



「今の…、どういうことだ」

「あ、あの、若、」

「姫が…親父の子供ってどういうことだよ!?」



オレの大声に何事だ、とみんなが集まってくるのがわかる。
でも、オレの混乱した感情を止めることはできなかった。

ーー姫が、聞いているのも知らずに。



「何を騒いでるんじゃ」

「総大将!」

「ジジィ…っ」

「…リクオ、ついてこい」



静かに私室へと向かうジジィの背中に黙ってついていく。
歩いているうちに混乱していた頭も少しは冷静になった。

ジジイは一体何を考えているのだろう。
姫は、このことを知っているのだろうか。

誰もいない部屋に二人きり、ジジイは上座に座ると俺を真っ直ぐ見つめた。




「隠してもつまらねぇ。…姫は、鯉伴の娘だ」

「…っ、どういうことだよ。姫は妖怪だ。母さんは、」

「ー…話せば長くなる」



ジジイから聞かされた話は信じられない内容だった。

母さんに出会う前に結婚していた女性…山吹乙女という女性は呪いにより子どもはできないと思われていた。
しかし、姿を消した後、何故か姫が生れたらしい。
ずっと山奥でひそかに暮らしていたが、山吹乙女さんは病によって亡くなってしまった。
離れて暮らしていようと姫が鯉伴の娘であることには変わらず、亡くなる前に託されたそうだ。

…そんなことが、ありえるのか。



「…なら、姫は俺とは腹違いってことか」

「そうなる」

「…姫は、このことを、知ってんのかよ」

「あぁ、承知しておる」

「………っ」



ようやく、わかった気がした。

姫が何故、俺と一定の距離を保とうとするのか。
…何故、俺に心をくれねぇのかも……

そうか、と一言だけ返し、オレは静かに黙り込む。
そんなオレに何かを感じたのか、ジジィは「リクオ、」とオレの名を呼ぶ。



「姫のことを苦しめるんじゃねぇぞ。…お前の気持ちを知らねぇわけじゃない」

「…オレは、」



好きでいちゃ、いけねぇのか。


そう口に出しそうになり、慌てて口をつぐむ。

何を聞いてるんだ。そんなこと、ジジィに答えを求めたって仕方がねぇってのに。

ぐっと拳に力を入れて、乱れる気持ちを抑え込むように…そして、何かから逃げるかのようにその場を後にしたのだった。

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