ケツイ



母の葬式は密かに行われた。
その間、私は涙が止まらず、ずっとずっとずっと…母を呼びながら泣いた。
…ぬらりひょんさんは、黙ってそんな私の側にいてくれた。
お墓の前に座り込んだ私に、隣に立っているぬらりひょんさん。
これまで一度も話すことはなかったが、初めてぬらりひょんさんが私に対して口を開いた。



「…乙女さんの願いはお前さんを預かることじゃ。お前さん、これからどうしたい」

「…どう、とは…」

「選択肢は二つじゃ。一つはここに残って一人で暮らす。もちろん、不自由がないよう援助はするがな。
二つ目はわしと一緒に…奴良組本家に行き、一緒に住むか」



どちらがいい、と静かに問われる。

…それはもう、実は考えていた。そして、答えも出していた。



「一緒に、行きたいです」

「…今決めんでもいいんじゃぞ」

「母が亡くなってから、ずっと考えて出した結論です。…ただ、不躾ながらお願いがございます」

「なんじゃ?」

「…私が、鯉伴さまのお子だということを黙っていてほしいのです」

「…何か理由があるのかい?」

「はい。…恐らく、すでにお孫さまがいらっしゃるのでは?」

「あぁ、おる」

「…私が鯉伴さまのお子であることが知られれば遅かれ早かれ後継者争いなどいらぬ争いがおきます。
…私は、そんなこと望んでおりません」



元々イレギュラーな存在。
孫がいるとなれば、やはりリクオが存在しているのだろう。
私というものがいるせいでリクオの三代目候補という立場を脅かしたくない。
だから、私は、私の血の繋がりを知られたくない。

今までにないくらい、真剣に私の考えを伝える。
…私の覚悟が伝わったのか、ぬらりひょんさんは袖に手を入れたまま、ゆっくりと頷いた。


「わかった。…お前さんは恩人の娘ということにしておこう」

「ありがとうございます、ぬらりひょんさま」

「あと、それじゃ!」

「…え?」


びしり、と指をさされ、何のことかわからずに首を傾げる。
何かまずいことでもしただろうか、と考えをめぐらせたが、何も浮かばず。
困惑した表情で見つめるとぬらりひょんさんは不機嫌そうに口を尖らせた。


「お前さんはわしの孫じゃろう?なのに、なーんで“ぬらりひょんさま”と他人行儀なんじゃ!―――お祖父様と呼べ。な?」

「…!っ、はい!…お祖父様」



にっ!と笑ったお祖父様に、嬉しくて思わず涙目になりながら頷いた。

…突然現れたこんな私を、孫と認めてくれた。
お祖父様、と呼ぶことを許してくれた。
初めて、お祖父様という存在ができた。

―――それがどれだけ嬉しかったか。

お祖父様に、我が身を全て預けよう。そう、決意した。

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