アフレル



ひそひそと噂話をされたり、今まで仲の良かった子妖怪たちまでどこかよそよそしかったり、信じていたものがどんどん崩れていく感覚に心の孤独感が増していく。
ああ、私は、…こうやって居場所をなくしてしまうのだろうか。
あまりの息苦しさにいたたまれなくなって唯一一人になれる自分の部屋に駆け込む。

どうしようもなく、涙が溢れた。

奴良組にいる時間は思ったより長くて、ただ生まれがわかっただけでこんなにも態度を変えられると辛かった。
…それに、みんなが知っているということは若君もご存知だろう。
若君は、どう思っただろう。自分に腹違いの姉がいたなんて…、…厭わしいと、思うのだろうか。
それとも、汚らわしいと思うのだろうか。…何れにしろ良い感情は抱かないだろう。



「姫」

「リクオ、さま…っ」



思い出すのは、若君の優しげで艶やかな声。
ーーもう、こんな声で私を呼んでくれないのだろうか。
それとも、それを望むことすら烏滸がましいのだろうか。

はらり、と涙が床に落ちるとふわりと誰かに抱き締められる。

知っている。この温もり、匂い…苦しくなるほどの優しさを。



「呼んだかい?」

「…っ」



思わず、リクオさま、と呼びそうになっていた。
でも、少しだけ残っていた自制心が喉の奥へと飲み込んだ。

若君は私の体をゆっくり自分の方へ向かせると変わらない優しさと激しさを含んだ目で私を見つめる。
そして、未だ流れる涙を優しく拭ってくれた。



「一人で泣くな。…オレが側にいるときだけ、泣いてくれ」

「…若君、」

「リクオ、だろ?」



なぁ、さっきみてぇに呼んでくれよ。

そっと唇をなぞられ、ぞくりと体が粟立つ。
求められている。心を、体を…全てを。

リクオさま、と震える声で呼べば、息をも食べつくされるようなキスをされる。
ダメだ、と心が叫ぶが、この温もりを離したくないと他の自分が叫ぶ。
姉弟なのに。私たちは、腹違いといえど血のつながりがあるのに。

それなのに痛いほど心が叫ぶ。――リクオさまを愛していると。



「んっ…ふ…」

「…、…姫…」



ちゅ、と音を立ててリクオさまが離れていく。

噎せかえるような色気にくらくらしてしまう。
あぁ、どうしてこの人はこんなにもかっこいいのだろう。

すでにリクオさまの色気にあてられた私は思考なんて停止している。
見上げるリクオさまは私の頬を再び優しく撫でて、ふっと口元を緩めた。



「物欲しそうな顔だな」

「…っ…」



リクオさまから出た言葉にかぁっと体と顔が熱くなるのがわかる。
私…他人から見ればわかるほどの顔をしているのだろうか。

リクオさまは嬉しそうに笑うと私の体を優しく抱き寄せた。



「お前ぇが誰だろうと関係ねぇ。…好きだ」

「…!」

「腹違いの姉?上等だ。オレは”姫”という女に惚れたんだからな」



あとは、姫の気持ち次第ぇだ。

そう耳元で囁かれ、鋭い瞳で射貫かれる。

…あぁ、リクオさまの覚悟は本物だ。
本気で、血のつながりなんて関係なく、私を見ている。

――私は?

私は、リクオさまの何を見ている?
弟という関係?三代目という立場?…リクオさまの、心…?

私は……――



「…リクオさまが、好きです…」

「あぁ」



その言葉を待ってたぜ、とリクオさまは自信を満ちさせた笑みを浮かべてもう一度私に口づける。

優しくて…甘くて、…一番幸せな口づけだった。


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